トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
ICUの空気が少し落ち着いた頃。

私のスマホが震えた。

画面を見る。

——優朔さん。

私は一度病室を出て、廊下へ出る。

電話へ出ると、すぐ声が聞こえた。

『梓ちゃん?』

「はい」

『紗凪ちゃんは……?』

その声は、落ち着いているようで少し震えていた。

私は小さく息を吐く。

「……さっき、少し反応ありました」

『……え?』

「陽貴さんの手、握り返して」

「少しだけ目も開けて」

数秒。

電話の向こうが静かになる。

そして。

『……よかった……』

掠れた声。

本気で安心したみたいだった。

『ほんとによかった……』

その声を聞いて、私まで少し泣きそうになる。

黒騎士のみんなだって、ずっと不安だったはずだ。

優朔さんは少し呼吸を整えてから聞く。

『今、状態は?』

「まだ人工呼吸器ついてます」

「でもバイタルはかなり落ち着いてきました」

『そっか……』

安心と、まだ消えない不安が混ざった声。

でも。

さっきまでよりずっと明るかった。

そして。

少し間が空く。

『……陽貴は?』

静かな声だった。

「……ずっとそばにいます」

「ご飯もやっと少し食べたくらいで」

「ほとんど寝てなくて。今やっと少し休みに行きました」

そう伝えると。

電話の向こうで、優朔さんが小さく息を吐いた。

『……そっか』

その声だけで分かった。

多分、想像通りなんだと思う。

『実は今』

『マネージャーが大阪向かってる』

心臓がドクリと音を立てる。

『社長もかなり心配してて』

『このまま陽貴を東京戻さないと、仕事が完全に止まる』

その言葉に、胸が重くなる。

分かってる。

陽貴さんは、“佐野陽貴”だ。

トップアイドル。

一人動けなくなるだけで、何十人、何百人に影響が出る世界。

でも今の陽貴さんを見たら。

とてもじゃないけど、簡単に“帰ってください”なんて言えない。

優朔さんが、少し言いづらそうに続ける。

『……梓ちゃん』

『もし出来たら』

『陽貴を説得してもらえないかな』

私は黙る。

『こんなこと頼んでごめん』

『ほんとは俺らが言うことじゃない』

『でも……』

そこで優朔さんが少し言葉を止めた。

『このまま陽貴、壊れそうで』

その声が、あまりにも本気だった。

私はぎゅっとスマホを握る。

病室のガラス越し。

眠る紗凪を見る。

私は小さく目を伏せた。

「……分かりました」

そう答えるしか、出来なかった。
< 145 / 242 >

この作品をシェア

pagetop