トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
初回のリハビリを終えた私は、完全にぐったりしていた。

「……しん、ど……」

ベッドへ戻った瞬間、全身の力が抜ける。

たった座って、少し立っただけ。

それなのに息は上がるし、身体は鉛みたいに重い。

理学療法士さんが苦笑しながら言った。

「今日はもう100点です」

「十分頑張りましたからね」

いやほんとに。

頑張ったと思う。

私は酸素マスク越しに浅く呼吸を繰り返した。

横で梓が水を飲ませてくれる。

「顔真っ白」

「…た…すけ…て」

掠れ声で返すと、梓が笑った。

その時だった。

コンコン。

病室の扉がノックされる。

「はーい」

梓が返事をすると。

ガラッと扉が開いた。

「おっ」

聞き慣れた声。

「ドレーン抜けてるやーん」

入ってきたのは、フライトスーツ姿の森崎さんだった。

どうやらフライト帰りらしい。

首元には汗。

髪も少し乱れていて、いかにも“現場終わり”って感じだった。

私は思わず少し笑う。

「……おか、えり……なさ、い……?」

掠れた声で言うと、森崎さんが吹き出した。

「なにそれ」

「病室やのに帰宅感ある」

そう言いながら、いつものように自然にベッド横へ来る。

そして私を見るなり、少し安心したみたいに息を吐いた。

「顔色、昨日より全然ええ」

「リハビリもしたんやって?」

私は小さく頷く。

すると梓がすぐ横から口を挟む。

「もう死にそうな顔してましたけど」

「ちょ、梓……」

「でもちゃんと立てたんですよ」

その言葉に、森崎さんが少し目を見開く。

「……立てたん?」

私はまた小さく頷いた。

すると森崎さんが、ふっと優しく笑った。

「すごいやん」

その一言が。

なんか、思ってた以上に嬉しかった。

私は少し照れくさくなって目を逸らす。

森崎さんはそんな私を見ながら、ベッド柵へ軽く腕を置いた。

「ほんま、回復力えぐいなぁ」

「西国先生もさっき、“一ノ瀬の回復力はすごい”言うてましたよ」

「……せん、せ……」

「めちゃくちゃ安心してました」

その言葉に、少し胸があったかくなる。

事故の日。

西国先生も、きっと相当自分を責めてた。

森崎さんはそのまま、そっと私の点滴ルートを確認する。

ほんと、自然に。

無意識なんだろうなってくらい。

「痛みどう?」

「……まだ、いた……い」

「そらそうや」

森崎さんが苦笑する。

「肋骨も肺もやってるんですから」

「逆に痛くなかったら怖いわ」

私は小さく笑った。

でも笑うとまだ胸が痛い。

「っ……」

顔をしかめると、森崎さんがすぐ気づく。

「ほらほら無理せん」

そう言って、自然にベッドの角度を少し調整してくれる。

その手際があまりにも慣れていて、なんだか安心した。

梓がそんな私たちを見て、ふっと笑う。

「森崎さん、もう完全に保護者ですよね」

その瞬間。

森崎さんが「え?」って顔をする。

私は思わず吹き出しそうになる。

すると森崎さんが少し困ったみたいに頭を掻いた。

「いや……なんか放っとかれへんのよ」

その言葉に。

私の胸が、少しだけ変な音を立てた気がした。
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