トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
すると森崎さんが、少しだけ安心したみたいに息を吐く。

風が吹く。

髪が揺れる。

遠くでヘリのローター音が聞こえた気がした。

私は俯いたまま、ぽつりと零す。

「…怖かった」

掠れた声。

「ほんと、に」

事故の瞬間。

身体が動かなくなった時。

意識が落ちていく時。

もう終わるのかもしれないって、本気で思った。

でもそれ以上に怖かったのは。

もう二度と現場へ戻れず、大切な人たちに会えないと思ったこと。

私はぎゅっと膝の上の手を握る。

すると。

ふわっと、温かいものが肩へ触れた。

「……っ」

気づいた時には。

森崎さんが、そっと私を抱きしめていた。

強くじゃない。

壊れ物を扱うみたいに、優しく。

でも。

逃がさないみたいに。

私は目を見開く。

森崎さんの胸元から、柔らかい洗剤の匂いがした。

心臓の音が近い。

「もう頑張らんでいい」

低くて優しい声。

耳元で、静かに落ちる。

「怖かったな」

その一言で。

張ってた糸が、切れた。

「……っ、ぅ……」

涙が溢れる。

止めようと思ったのに、止まらなかった。

私は森崎さんの服をぎゅっと掴む。

森崎さんは何も言わない。

ただ、背中をゆっくり撫でてくれる。

「ちゃんと、生きてるから」

「ほんで、俺はここにおるから」

その声があまりにも優しくて。

私は泣きながら、小さく頷いた。

しばらく。

誰も何も言わなかった。

ただ風の音だけが、静かに響いている。

やがて。

少し落ち着いた頃。

森崎さんが、私の頭へそっと触れた。

「……ほんま、無茶しすぎやで」

少し掠れた笑い声。

私は涙を拭きながら、小さく笑う。

「…森崎さんも、寝てくださいね」

その瞬間。

森崎さんが吹き出した。

「その状態で人の心配するとか」

「ほんま紗凪ちゃんらしいなぁ」

困ったみたいに笑う顔。

でもその目は、どこまでも優しかった。

私はまた少しだけ、森崎さんの胸元へ額を預けた。

不思議だった。

陽貴くんとは違う安心感。

包み込むみたいな温かさ。

それが今の弱った自分には、少しだけ心地よかった。
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