トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
楽屋。

深夜。

撮影終わり。

ソファへ座り込んだまま、俺はスマホを見つめる。

さっきまで映っていた紗凪の顔。

少し痩せてた。

でも笑ってた。

ちゃんと、生きてた。

それだけで十分安心しなきゃいけないのに。

胸の奥は全然満たされない。

その時。

「陽貴」

低い声。

顔を上げると、優朔が缶コーヒーを片手に立っていた。

後ろには奏と蒼依もいた。

いつの間にか、みんな楽屋へ戻ってきてたらしい。

「……そんな顔しないでくださいよ」

奏が苦笑しながら俺の隣へ座る。

俺は小さく息を吐いた。

「陽貴さん、今にも消えてしまいそうです」

蒼依は眉を下げる。

「…大丈夫だ」

反射で返すと、優朔が呆れたみたいに笑った。

「いや、お前この2週間で何回そのセリフ聞かせんの」

図星すぎて何も言えない。

優朔は俺の向かいへ座る。

そして静かに言った。

「一ノ瀬さん、元気なってきてるんだろ?」

「……うん」

「じゃあ今はそれで十分」

その言葉に、俺は俯いた。

十分。

分かってる。

ほんとは、それだけで奇跡みたいなことだって。

でも。

「……なんかさ」

掠れた声が出る。

「俺、何もできてなくて」

3人が静かに俺を見る。

「しんどい時、そばにいれないし」

「リハビリも」

「苦しい時も」

「全部、違う人が支えてて」

喉が詰まる。

「俺、恋人なのに」

その瞬間。

「うわっそんなこと思ってたんすか」

奏は苦笑しながら続ける。

「でもさ」

「それ、“支えてる人に嫉妬してる”っていうより」

「“自分がそばにいれないことが悔しい”んですよね」

その言葉に、俺は黙る。

多分。そうだった。

森崎さんに対して、嫌な感情があるわけじゃない。

むしろ感謝しかない。

梓ちゃんも。

紗凪のお母さんも。

みんなが支えてくれたから、紗凪はここまで回復した。

分かってる。

でも。

その中に、自分がいない。

それが苦しい。

優朔が静かに言った。

「陽貴」

「お前さ」

「ちゃんと一ノ瀬さんに愛されてるじゃん」

俺は顔を上げる。

優朔は少し笑った。

「あの子見てたら分かるよ」

「陽貴と話してる時、顔違うもん」

「めちゃくちゃ安心した顔する」

「他の人には見せない顔をするんだ」

その言葉に、胸がぎゅっとなる。

蒼依も頷く。

「分かる」

「あと陽貴さんの名前出る回数異常」

「それは元からでしょ」

奏が笑う。

少しだけ空気が和らぐ。

でも優朔は真面目な顔のまま続けた。

「今、そばにいれないことは仕方ない」

「でも」

「離れてても、お前が一ノ瀬さんの支えになってるのは変わんない」

その声は、すごく真っ直ぐだった。

「じゃなかったら、あんな状態でお前の手握り返したりしない」

俺は息を呑む。

あの日。

大阪で。

紗凪が、俺の手をぎゅっと握った瞬間を思い出す。

あれだけで。

“生きてる”

って、涙出そうになった。

奏が俺の肩を軽く叩く。

「今はちゃんと仕事して
そんで落ち着いたら会いにいきましょう」

「紗凪さん絶対その方が喜ぶから」

俺はしばらく黙ったあと、小さく頷いた。

「紗凪さんが元気になったら絶対お帰りなさい会しましょうね!」

と楽しそうに話す蒼依。

そんな姿を見て自然と笑みが溢れた。

「そうだな…」

重かった心が少し軽くなったような気がした。



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