トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
陽貴くんに抱きしめられた瞬間。

胸の奥に溜まっていたものが、一気に溢れそうになった。

「……っ」

苦しいくらい強く抱きしめられてるのに。

不思議と安心する。

陽貴くんの匂い。

体温。

声。

全部、“帰ってきた”って感じがした。

「前見た時よりずいぶん元気になったな」

耳元で落ちた声は、少し掠れていた。

私は小さく陽貴くんの服を掴む。

「……はる、き……くん」

すると陽貴くんが、そっと身体を離した。

でも手だけは離さない。

まるで、“まだちゃんとここにいるか確認してる”みたいに。

その後。

病室は一気に賑やかになった。

「紗凪さん顔色めっちゃ良くなってますね!」

「いやでもまだ細っ……」

「奏、お前声でかい」

「うるさいなぁ蒼依は」

優朔さんは優朔さんで、

「みんなが一ノ瀬さんに会いたいって聞かなくて…」

困った顔をしているがどこか嬉しそうで。

梓は横で、

「優朔さんも会いたがってたくせに」

と言って笑う。

私は久しぶりに、心から笑っていた。

こんな風に笑ったの、いつぶりだろう。

それくらい嬉しかった。

でも。

さすがにトップアイドル4人が長時間病院にいるわけにもいかない。

ひと通り話して。

時刻は16時過ぎ。

奏くんが立ち上がった。

「よし」

「俺ら、大阪グルメ堪能してきますね」

「せっかく大阪来たし」

すると蒼依くんが呆れた顔をする。

「お前それ目的でもあっただろ」

病室に少し笑いが起きる。

優朔さんが私へ優しく笑った。

「また来るからね」

「今度はもっと元気な時に」

私は頷く。

「……はい」

そして。

梓も立ち上がった。

「じゃ、私も付き添いで行ってきます」

「この人たち放置すると絶対迷子なるから」

「大丈夫っすよ」

「奏はなる」

「蒼依もなる」

「優朔さんは方向音痴」

「おい」

わちゃわちゃ騒ぎながら病室を出ていく4人。

私は思わず吹き出した。

そして。

気づけば病室には、陽貴くんだけが残っていた。

私は少し目を瞬く。

「……陽貴くんも、行っていいのに」

そう言うと。

陽貴くんは即答した。

「行かない」

あまりにも迷いなくて、少し笑ってしまう。

「大阪グルメ……」

「紗凪のほうが大事」

真顔だった。

私は少し照れて視線を逸らす。

すると陽貴くんが、ベッド横の椅子へ座る。

そして。

また、当たり前みたいに私の手を握った。

「……やっと会えた」

ぽつりと落ちた声。

その声に、胸がぎゅっとなる。

「毎日、会いたくて死にそうだった」

陽貴くんは少し眉を寄せる。

「テレビ電話切ったあととか、ほんと無理だった」

「紗凪触れられないし」

「抱きしめられないし」

私は思わず笑ってしまう。

でも。

同じだった。

私も、ずっと会いたかった。

画面越しじゃ足りなかった。

「……会いたかった」

小さく言うと。

陽貴くんが、少しだけ泣きそうな顔で笑った。

そして。

私の手へ額をそっと押し当てる。

「……もう、ほんと無理すんなよ」

掠れた声。

その瞬間。

私はふと思い出す。

中庭。

森崎さんの言葉。

“俺やったら、そんな顔させへん”

胸が、少しだけざわついた。

でも。ちゃんと断らなきゃと思った。

今、目の前にいる陽貴くんの手は。

震えるくらい、温かかった。
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