トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
森崎さんは、少しだけ笑った。

でも。

その笑顔の奥にあるものが、痛いくらい伝わってきて。

私は胸がぎゅっと苦しくなる。

「……ごめんなさい」

小さくそう言うと。

森崎さんはすぐに首を横に振った。

「だから、謝らんでって」

優しい声。

責める気なんて、一つもない声だった。

「俺が勝手に好きになっただけやし」

「紗凪ちゃんは、ちゃんと大事な人のこと好きでおっただけやろ?」

私は唇を噛む。

森崎さんは少し視線を逸らして、ふっと笑った。

「まぁ正直、ちょっとは期待してたけどな」

冗談っぽく言う。

でも。

その言葉の端にある本音が分かってしまって、余計に苦しかった。

「……でもな」

森崎さんが、また私を見る。

「彼氏くんとおる時の紗凪ちゃん、ほんま幸せそうやった」

その声は、とても穏やかだった。

「俺、あんな顔見たことなかったもん」

思い出してるのか、小さく笑う。

「悔しいけど」

「“あぁ、この子この人のことほんま好きなんやな”って、すぐ分かった」

私は静かに目を伏せた。

陽貴くんの顔が浮かぶ。

抱きしめてくれた温もり。

泣きそうな顔で名前を呼んでくれた声。

“紗凪が生きててよかった”って震えてた手。

全部、胸に残ってる。

森崎さんは、そんな私を見て優しく言った。

「ちゃんと幸せになりや」

その瞬間。

涙が、ぽろっと落ちた。

森崎さんが「あーもう」と困ったみたいに笑う。

「ほんま泣き虫なったなぁ」

そう言いながら。

ティッシュを一枚、私へ差し出してくれる。

私は受け取りながら、小さく笑った。

「……森崎さんも」

「ん?」

「絶対、幸せになってください」

その言葉に。

森崎さんは少しだけ目を丸くして。

それから、ふっと笑った。

「なにそれ」

「失恋した男への励まし?」

「……ちがいます」

「ふは、ありがと」

その笑顔は、少し寂しそうで。

でもどこか吹っ切れたみたいにも見えた。

そして森崎さんは立ち上がる。

「さて」

「主任、仕事戻ります」

わざとらしく言う声に、私は少し笑ってしまう。

森崎さんは病室の扉の前まで行って。

そこで一度だけ振り返った。

「退院したら」

「またヘリポート連れてったるわ」

私は目を瞬く。

森崎さんは、にっと笑った。

「今度は“患者”やなくて、“フライトナース”としてな」

その言葉に。

胸の奥が、じわっと熱くなる。

私は、ゆっくり頷いた。

「……はい」

森崎さんも、小さく頷き返す。

そして最後に。

「待ってんで、みんな」

あの日と同じ言葉を残して。

今度こそ、病室を出ていった。

閉まる扉を見つめながら。

私はそっと、自分の胸へ手を当てる。

失ったと思った未来。

もう戻れないかもしれないと思った場所。

でも。

待っていてくれる人たちがいる。

帰りたいと思える場所がある。

それはきっと、すごく幸せなことだった。
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