トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
次の日の朝。

私は静かな部屋の中で、最後の荷物確認をしていた。

床には、大きめのキャリーケース。

大阪へ来た日より、少しだけ荷物が増えている。

教材。

資料。

現場で使っていたノート。

スタッフたちと撮った写真。

気づけば、この半年の思い出がぎっしり詰まっていた。

私は部屋をゆっくり見渡す。

最初は慣れなくて。

“半年だけ”って思ってた場所。

でも今は。

ちゃんと“帰る場所”の一つになっていた。

ここで何回も寝落ちした。

疲れて床で座り込んだ日もあった。

陽貴くんと電話しながら泣いた日も。

事故後、退院して一人で戻ってきた夜も。

全部思い出す。

私は小さく笑う。

「……ほんと、色々あったな」

ぽつりと呟く。

窓の外は、よく晴れていた。

大阪で過ごした半年。

苦しかったことも多かった。

でも。

それ以上に、得たものが大きかった。

私はキャリーケースの持ち手を引き上げる。

ガラガラ、と小さな音。

そして。

玄関で一度だけ振り返った。

静かな部屋。

もうここへ戻ることは、きっとあまりない。

でも。

この場所で過ごした時間は、一生忘れないと思った。

私は小さく頭を下げる。

「……ありがとうございました」

誰に言うでもなく。

そう呟いて、扉を閉めた。

廊下を歩く。

エレベーターへ乗る。

一階へ降りる音が、やけにゆっくり聞こえた。

エントランスを出ると。

朝の空気が頬を撫でる。

私はスマホを取り出した。

画面には、陽貴くんからのメッセージ。

『空港迎え行くね』

その一文を見た瞬間。

自然と笑みが零れた。

——帰るんだ。

東京へ。

みんながいる場所へ。

でも同時に。

大阪にも、大切な人たちが出来た。

そう思うと、胸が少しだけ温かくなる。

タクシーへキャリーケースを積み込む。

「関西空港までお願いします」

走り出す車。

窓の外には、大阪の街並み。

何度も通った道。

病院へ向かった朝。

ヘリ要請で急いだ夜。

森崎さんたちとご飯へ行った帰り道。

全部が流れていく。

私はその景色を静かに眺めながら、小さく息を吐いた。

——終わったんだ。

長かった半年が。

でも。

これは終わりじゃない。

きっと。

ここからまた、新しい毎日が始まる。
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