トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
陽貴くんの腕の中は、驚くくらい安心する場所だった。

ずっと。

ずっと戻ってきたかった場所。

私は抱きしめられたまま、小さく息を吐く。

陽貴くんの匂い。

体温。

心臓の音。

全部が懐かしくて。

それだけで泣きそうになる。

すると。

頭の上から、小さく笑う声が落ちてきた。

「……紗凪、ほんと軽くなった」

私は顔を上げる。

「え」

「痩せたね」

「……それは事故があったから…」

「分かってる」

陽貴くんが少し眉を下げる。

その顔に、胸がきゅっとなる。

きっと私が知らないところで、いっぱい心配してくれてた。

怖かったんだと思う。

失うかもしれないって。

私はそっと陽貴くんの服を掴む。

すると陽貴くんがまたぎゅっと抱きしめ直してくれた。

「もう離したくない」

ぽつりと落ちた声。

私はその胸へ顔を埋めながら、小さく笑う。

「……わたしも」

陽貴くんがぴたりと止まる。

私は少しだけ照れながら続けた。

「ずっと、抱きしめてほしかった」

その瞬間。

腕に入る力が強くなる。

「……やばい」

「なにが?」

「今の可愛すぎる」

私は思わず吹き出した。

でも本音だった。

電話越しじゃ足りなかった。

画面越しの“おやすみ”じゃ寂しかった。

ちゃんと触れて。

抱きしめてもらって。

“ここにいる”って感じたかった。

「紗凪…」

そう言って陽貴くんがキスをしようとする。

「ちょっ…空港だよ」

流石にまずいと思って慌てて止めた。

「知ってる」

「人いっぱいいるよ」

「知ってる」

「……記者に撮られたらどうするの」

そう言うと。

陽貴くんが少しだけ顔をしかめる。

「…紗凪もアイドルの彼女らしくなってきたね」

「大事な問題だから」

「やだ」

完全に拗ねた声。

私は吹き出してしまう。

すると陽貴くんが、少しだけ不満そうに私を見る。

「久しぶりなんだけど」

「知ってる」

「俺ずっと我慢してたんだけど」

「……うん」

「今くらい抱きしめさせて」

その声があまりにも真っ直ぐで。

私はもう何も言えなくなる。

結局また自分から抱きついてしまった。

陽貴くんが、小さく笑う。

「ほら」

「紗凪も離れたくないんじゃん」

「……離れたくない」

今度は、ちゃんと口にした。

陽貴くんが目を見開く。

私は顔を赤くしながら、でも逃げずに続けた。

「いっぱい我慢したもん」

「会いたかったし」

「触りたかったし」

「隣にいたかった」

言えば言うほど恥ずかしくなる。

でも今はちゃんと伝えたかった。

陽貴くんは数秒固まったあと、片手で顔を覆った。

「…も…やば、まじで」

「なに?」

「俺いま多分世界一幸せ」

その返しがずるくて。

私は笑いながら、また胸元へ額を押しつけた。

すると陽貴くんが、髪を優しく撫でる。

「……いっぱい頑張ったね」

静かな声。

私は目を閉じる。

「陽貴くんも」

「俺は紗凪ほどじゃない」

「そんなことない」

ライブ。

ツアー。

ドラマ。

取材。

忙しい中で、ずっと私を支えてくれてた。

会えなくても。

毎日連絡くれて。

不安にさせないようにしてくれて。

その全部を思い出す。

私は小さく笑った。
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