トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
「じゃあまた連絡する」

「うん」

店の前で、梓が小さく手を振る。

夕方の柔らかい風が、梓の髪を揺らした。

私は少し笑う。

「優朔さんによろしくね」

その瞬間。

梓が「うわ」みたいな顔をする。

「その言い方やめて」

「なんで」

「なんか恥ずかしい」

「へぇ〜?」

私がニヤニヤすると、梓が軽く肩を叩いてくる。

「紗凪も陽貴さんによろしく」

「……っ」

今度は私が詰まる番だった。

梓が満足そうに笑う。

「お互い重症だね」

「否定できない……」

そんなことを言いながら。

最後にもう一度軽く抱きしめ合って、私たちは別れた。

駅へ向かう途中。

私はふと空を見上げる。

夕焼けが綺麗だった。

大阪にいた時も、何度も空を見た。

でも今見る東京の空は、どこか安心する。

私は小さく息を吐いて、そのままスーパーへ寄った。

野菜を選びながら。

今日の梓との会話を思い出して、思わず笑ってしまう。

まさかあの梓が。

あんなに恋愛の話をする日が来るなんて。

しかも相手が優朔さんなんて。

黒騎士のメンバー同士で付き合ってるとか、冷静に考えてすごい。

私はトマトを手に取りながらクスッと笑った。

でも梓、幸せそうだったな。

それが何より嬉しかった。

買い物を済ませて、陽貴くんの家へ帰る。

玄関を開ける。

「ただいま」

自然と声が出る。

まだ誰もいない部屋。

でも陽貴くんが帰ってくる場所だと思うだけで、不思議と温かかった。

私はエプロンをつけてキッチンへ立つ。

冷蔵庫を開ける。

包丁を握る。

野菜を切る音が静かな部屋へ響く。

こういう時間が好きだった。

好きな人のためにご飯を作る時間。

帰ってくる時間を考えながら待つ時間。

私は味噌汁を火へかけながら、小さく笑った。

……本当に同棲してるみたい。

そうだといいな…なんて思ったり。

その時スマホが震える。

《今終わった》

陽貴くんから。

私はすぐ返信する。

《お疲れさま。ご飯できてるよ》

すると秒で返ってきた。

《好き》

「あはは」

思わず声に出る。

ご飯できてるだけで“好き”って返ってくるの、ほんとずるい。

私は笑いながら料理を並べていく。

しばらくして。

ガチャ、と玄関の音がした。

私は反射的に顔を上げる。

リビングの扉が開く。

「ただいま〜……」

少し疲れた声。

でも私を見た瞬間、表情がふわっと緩む。

「おかえり」

そう言うと。

陽貴くんが、数秒止まった。

「……やっぱこれいい」

「なにが?」

「帰ってきたら紗凪いるの」

その声が、あまりにも自然で。

胸がじんわり温かくなる。

私は少し笑う。

「お疲れさま」

そう言った瞬間。

陽貴くんが、まっすぐこっちへ来た。

そして。

ぎゅっと抱きしめられる。

「わっ」

「……会いたかった」

ぽつり。

まだ今日会って半日くらいなのに。

私は思わず笑ってしまう。

「今日の朝も会ったじゃん」

「でも足りない」

「重い彼氏」

「今さら?」

その返しに吹き出す。

すると。

陽貴くんが私の肩へ顔を埋めたまま、小さく言う。

「今日なにしてたの?」

「梓とスイーツバイキング」

その瞬間。

陽貴くんが顔を上げる。

「どうだった?」

「めちゃくちゃ喋った」

「梓ちゃん元気だった?」

「うん」

私は少しニヤニヤしながら続ける。

「あと優朔さんとの話めちゃくちゃ聞いた」

すると。

陽貴くんが吹き出した。

「あー……梓ちゃん絶対全部喋ってる」

「喋ってた」

「優朔終わったな」

「黒騎士ってそんな恋愛筒抜けなの?」

「まぁ割と」

そんな話をしながら。

私はふと、陽貴くんを見上げる。

疲れてるはずなのに。

私を見る顔が、すごく柔らかい。

私は胸がきゅっとなって、そっと背中へ腕を回した。

「……ご飯食べよっか」

そう言うと。

陽貴くんが、嬉しそうに笑った。
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