トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-


「……そろそろ帰るね」

私がそう言うと、梓が小さく頷いた。

二人でカンファレンスルームを出る。

いつも通りの慌ただしいICU。

聞こえてくるモニター音。

スタッフステーションの明かり。

何度も見てきた景色。

でも今日は、いつもより少しだけ特別に見えた。

更衣室の前まで来たところで、梓が立ち止まる。

私も自然と足を止めた。

少しの沈黙。

すると梓が、ふっと笑う。

「半年なんてあっという間だよ」

「……うん」

「気づいたら普通に“おかえり”って言ってる気がする」

その言葉が嬉しくて、私は小さく笑った。

「ちゃんと成長して帰ってくる」

「うん」

「期待してる」

梓はそう言いながら、私の肩を軽く叩く。

その顔はいつもの梓だった。

強くて。

優しくて。

どこか安心する顔。

「向こう行っても紗凪は紗凪なんだから」

「無理して変わろうとしなくていい」

「困ったら頼る」

「ちゃんと食べる」

「寝れる時は寝る」

「あと天然で変なとこ行かない」

「最後だけおかしくない?」

「大事だから」

真顔で返されて、私は思わず吹き出した。

そんな私を見て、梓も小さく笑う。

それから。

梓が一歩近づいた。

そして、ふわっと私を抱きしめる。

「……頑張っておいで」

耳元で落ちた優しい声。

涙が込み上げてくる。

私もそっと梓を抱きしめ返した。

「……うん」

「ちゃんと帰ってくる」

「待ってる」

その言葉が、嬉しかった。

離れるのは寂しい。

でも。

帰ってきたいと思える場所がある。

待っていてくれる人がいる。

それだけで、前を向ける。

梓はゆっくり身体を離すと、いつもの少し強気な笑顔を向けてくる。

そして。

「じゃあ、いってらっしゃい」

その言葉に。

私は自然と笑った。

「……行ってきます」





< 63 / 242 >

この作品をシェア

pagetop