トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
育成メンバーたちの緊張はまだ解けていないようで。

それも当然だと思う。

壇上には、日本各地から集められたトップクラスの救命スタッフ。

その中で、これから半年間学ぶ。

プレッシャーがないわけがない。

高城先生が静かに前へ出た。

「本日から半年間」

「皆さんには、“本物の現場”へ入ってもらいます」

その瞬間、会場の空気が変わる。

さっきまでの華やかな雰囲気じゃない。

みんな一気に、“救命”の顔になる。

「ドクターヘリは、常に命の最前線です」

「一秒の判断が、生死を分ける」

「だからこそ」

「ここで求めるのは、“知識だけ”ではありません」

静かな声。

でも、言葉一つ一つが重い。

「恐怖の中でも動けるか」

「極限状態で、人を生かせるか」

「仲間を信じ、チームで戦えるか」

会場が静まり返る。

育成メンバーたちも、真剣な顔で前を見ていた。

高城先生は、その全員をゆっくり見渡す。

「皆さんは、全国から選ばれました」

「期待されています」

「ですが——」

そこで一度区切る。

「現場は、期待だけでは人を救えません」

空気がさらに張り詰める。

その言葉には、現場を知る人間にしか出せない重みがあった。

私は自然と背筋を伸ばす。

隣を見ると。

森崎さんも、神波さんも、斉賀さんも。

全員、完全に“現場の顔”になっていた。

もう軽い空気はない。

そこにいるのは、“命を預かる人間”だった。

そして高城先生が続ける。

「だからこそ、我々指導者がいます」

「皆さんを、必ず全国で活躍するフライトドクター、フライトナースへと導きます。」

「それが、このプロジェクトの責任です」

その瞬間。

壇上にいる私たち8人へ、一気に視線が集まる。

重い。

その期待が。

でも同時に。

不思議と怖くはなかった。

すると。

高城先生がふっと表情を和らげる。

「……とはいえ」

「最初から完璧な人間なんていません」

その言葉に、少しだけ空気が緩む。

「失敗してもいい」

「分からなくてもいい」

「ただ」

「“患者を救いたい”という気持ちだけは、絶対に忘れないでください」

その声は、どこまでも真っ直ぐだった。

育成メンバーの表情が少し変わる。

緊張の中に、覚悟が混ざり始める。

すると司会がマイクを持った。

「それでは次に、フライトナース指導者代表として森崎主任よりご挨拶をお願いします」

その瞬間。

会場が少しざわつく。

森崎さんは「えぇ俺?」みたいな顔をしたあと、小さく笑いながら前へ出た。

でも。

マイクを持った瞬間。

空気が変わる。

いつもの軽さが、すっと消える。

「……まぁ」

森崎さんが、育成メンバーたちを見る。

「多分みんな、今めちゃくちゃ緊張してると思います」

その言葉に、何人かが小さく笑う。

「でも安心してください」

「最初っから出来る人なんかおらんので」

柔らかい関西弁。

なのに、不思議とよく響く。

「俺らも最初はボロボロでした」

「怒鳴られて、失敗して、悔しくて」

「それでも現場立ち続けて、今ここいます」

森崎さんの声が少し低くなる。

「救命って、綺麗事だけではやれへん仕事です」

「しんどいし、怖いし、心折れそうになる時もある」

「でも」

そこで少し笑った。

「患者助かった瞬間、全部吹っ飛びます」

その言葉に、育成メンバーたちの表情が変わる。

「半年後」

「ここ来てよかったって思わせます」

「せやから」

森崎さんが、まっすぐ全員を見る。

「全力で来てください」

静かな空気。

その瞬間。

——パチパチパチッ!!

会場中から大きな拍手が響いた。

記者たちもシャッターを切る。

フラッシュが光る。

でも。

壇上にいた私たちは分かっていた。

これはただのイベントじゃない。

ここから始まるのは。

本当に、“命の現場”なんだと。
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