天平恋詠~極道のお嬢が奈良時代に転生~病弱皇子を守って、この国、あたしが変えてみせます!
第9話 おびちゃんの視線
――眠れなかった。
そりゃそうだ。
急に結婚。
しかも相手は――首皇子《おびとおうじ》。
未来の天皇候補。
なのに病弱。
しかも優しい。
(いやいや、急すぎん!?)
朝から心臓が落ち着かない。
サチに髪を整えられながらも、落ち着かない。
「姫様、今日は少しおしとやかに……」
「努力はする」
「努力!?」
サチが絶望していた。
ごめん。
無理かも。
通されたのは、不比等邸の奥座敷。
緊張感のある空気。
父・不比等《ふひと》。
母・橘三千代《たちばなのみちよ》。
そして、向かいには――。
(……うわ)
いた。
首皇子。
久しぶりにちゃんと見る。
やっぱり、綺麗。
線が細くて。
白い肌。
黒髪がさらりと落ちる。
どこか儚《はかな》くて。
なのに。
目だけが、静かに強い。
(奈良時代って顔面偏差値どうなってんの?)
思わず心の中でツッコむ。
「光明《こうみょう》」
父の声で我に返る。
「座りなさい」
静かに頭を下げる。
そして――。
気づいた。
おびちゃん。
めっちゃ見てる。
いや。
すごい見てる。
なんで?
そんな見る?
気まずい。
というか。
(近くで見ると顔良すぎない!?)
視線を逸らしたい。
でも逸らせない。
すると。
「……久しぶり」
先に口を開いたのは、首皇子だった。
低くて、静かな声。
「元気そうで……安心した」
その言葉が、妙に優しかった。
「え、あ、うん」
なんだろ。
空気が変。
前より、近い。
いや。
向こうが近い。
しかも。
なんか、すごく見てくる。
母が優しく微笑んだ。
「首皇子さま。光明は少々勝気ですが、根は優しい子です」
「知っています」
即答だった。
え。
ちょっと待って。
その間。
ほぼ、なかったよね?
すると首皇子は、少しだけ微笑んだ。
「困っている人を見ると、放っておけない」
静かな声。
「強く見えて……優しい」
――え。
なにそれ。
そんなふうに見られてたの?
心臓が、少しだけ跳ねた。
その時。
首皇子が、ふと視線を落とした。
「もし……迷惑でなければ」
一瞬、沈黙。
そして。
彼は、まっすぐこちらを見る。
「これから、少しずつ話したい」
やさしい目だった。
押しつけじゃない。
でも。
ちゃんと、待ってる目。
「あなたのことを……知りたい」
――どくん。
心臓が鳴った。
(え)
なに。
この人。
思ったより……破壊力高くない?