天平恋詠~極道のお嬢が奈良時代に転生~病弱皇子を守って、この国、あたしが変えてみせます!
第5話 一族の極秘会議
義母・宮子さまの館に居候して――数か月が過ぎた。
季節は、すっかり秋。
風が冷たくなり、庭の木々も少しずつ色づき始めている。
そのころ。
県犬養夫人《あがたいぬかいのぶにん》が――どうやら懐妊したらしい。
しかも。
その人、めちゃくちゃ見せびらかすタイプ。
わざわざお腹をさすりながら、遠回しにマウントを取ってくる。
(うざっ)
刺激しないように、なるべく顔を合わせないようにしていた。
――のに。
「ワン! ワンワンッ!!」
「ぎゃっ!?」
突然、真っ黒な犬が館に飛び込んできた。
しかも、めちゃくちゃ吠える。
廊下を走り回り、あたしの袴に噛みつこうとしてくる始末。
「まあ……困りましたね」
宮子さまは、相変わらず穏やかな声だった。
「犬屋敷へ連れて行きましょうか」
だけど。
あたしの心の中は、完全にブチ切れていた。
(――どついたろか?)
(あん? 犬鍋になりたくなければ二度と来るんじゃねえぞ?)
もちろん口には出さない。
出したら未来の皇后候補として終わる。
だから、にっこり微笑んで言った。
「野良犬のようですわ。町へお譲りしてはどうでしょう。番犬として喜ばれるかもしれません」
「あ、はい! 姫さま!」
役人が慌てて犬を抱えていく。
……ふう。
すっきり。
これで黒犬クマともお別れだ。
後ろで宮子さまが、小さく笑った気がした。
◇
侍女たちの世間話で知ったことがある。
宮子さまは、未来の義母。
――だけど同時に、異母姉妹でもあるらしい。
父は同じ。
母が違う。
だからなのか。
妙に気が合った。
宮子さまの隣に座っているだけで、不思議と心が落ち着く。
この館は静かで。
少し寂しくて。
でも、あたしはここが好きだった。
ある日。
宮子さまの希望で、館に黒猫を迎えることになった。
「名前をつけていいわよ」
そう言われて、あたしは少しだけ迷う。
――そして。
「クロエ」
高校時代の親友の名前を借りた。
金髪まじりのハーフで、いじられキャラ。
でも優しくて、放っておけない子だった。
(元気にしてるかなあ)
そんなことを思いながら、暴れ回る子猫を抱き上げる。
「にゃあっ!」
「こら、クロエ! 障子のぼるな!」
猫はやんちゃで。
でも、その騒がしさが少しだけ心を軽くした。
……今のあたし、癒やしが必要なんだよな。
◇
秋の終わり。
父が館を訪れた。
――藤原不比等《ふじわらのふひと》。
今、この国で最も力を持つ男。
そして。
あたしと宮子さまの父でもある。
その後ろには、四人の兄たち。
圧がすごい。
完全に“組の幹部会議”感ある。
兄のひとりが、美しい琵琶を抱えていた。
ラクダの文様が貝で飾られた、異国風の豪華な品。
「首皇子《おびとのみこ》が、宮子さまへ贈られたそうです」
宮子さまは琵琶をそっと撫で、寂しそうに笑った。
「皇子には……生まれてから、一度も会えていないの」
ぽつり、と落ちる声。
「会いたいわ。でも……もっと元気になってからでないと」
そう言って、寝台へ横になる。
父は、そんな宮子さまの髪を優しく撫でた。
「きっと良くなる」
兄たちは顔を曇らせる。
「赦せぬ……」
「先帝が冷たくしたせいだ」
その話は何度も聞いた。
宮子さまは、先帝から愛されず、心を病んだ。
だから藤原家は怒っている。
……というか。
毎回この話をして、結束を固めてる気もする。
すると父が、ふっとあたしを見た。
「光明子。お前のおかげで、宮子は回復している」
「え?」
「以前は一言も話さなかった。今では猫を撫でて笑う」
少しだけ。
胸が、あたたかくなった。
その時だった。
「宮子さま、お薬のお時間です」
侍女に促され、宮子さまが部屋を出る。
――そして。
空気が変わった。
季節は、すっかり秋。
風が冷たくなり、庭の木々も少しずつ色づき始めている。
そのころ。
県犬養夫人《あがたいぬかいのぶにん》が――どうやら懐妊したらしい。
しかも。
その人、めちゃくちゃ見せびらかすタイプ。
わざわざお腹をさすりながら、遠回しにマウントを取ってくる。
(うざっ)
刺激しないように、なるべく顔を合わせないようにしていた。
――のに。
「ワン! ワンワンッ!!」
「ぎゃっ!?」
突然、真っ黒な犬が館に飛び込んできた。
しかも、めちゃくちゃ吠える。
廊下を走り回り、あたしの袴に噛みつこうとしてくる始末。
「まあ……困りましたね」
宮子さまは、相変わらず穏やかな声だった。
「犬屋敷へ連れて行きましょうか」
だけど。
あたしの心の中は、完全にブチ切れていた。
(――どついたろか?)
(あん? 犬鍋になりたくなければ二度と来るんじゃねえぞ?)
もちろん口には出さない。
出したら未来の皇后候補として終わる。
だから、にっこり微笑んで言った。
「野良犬のようですわ。町へお譲りしてはどうでしょう。番犬として喜ばれるかもしれません」
「あ、はい! 姫さま!」
役人が慌てて犬を抱えていく。
……ふう。
すっきり。
これで黒犬クマともお別れだ。
後ろで宮子さまが、小さく笑った気がした。
◇
侍女たちの世間話で知ったことがある。
宮子さまは、未来の義母。
――だけど同時に、異母姉妹でもあるらしい。
父は同じ。
母が違う。
だからなのか。
妙に気が合った。
宮子さまの隣に座っているだけで、不思議と心が落ち着く。
この館は静かで。
少し寂しくて。
でも、あたしはここが好きだった。
ある日。
宮子さまの希望で、館に黒猫を迎えることになった。
「名前をつけていいわよ」
そう言われて、あたしは少しだけ迷う。
――そして。
「クロエ」
高校時代の親友の名前を借りた。
金髪まじりのハーフで、いじられキャラ。
でも優しくて、放っておけない子だった。
(元気にしてるかなあ)
そんなことを思いながら、暴れ回る子猫を抱き上げる。
「にゃあっ!」
「こら、クロエ! 障子のぼるな!」
猫はやんちゃで。
でも、その騒がしさが少しだけ心を軽くした。
……今のあたし、癒やしが必要なんだよな。
◇
秋の終わり。
父が館を訪れた。
――藤原不比等《ふじわらのふひと》。
今、この国で最も力を持つ男。
そして。
あたしと宮子さまの父でもある。
その後ろには、四人の兄たち。
圧がすごい。
完全に“組の幹部会議”感ある。
兄のひとりが、美しい琵琶を抱えていた。
ラクダの文様が貝で飾られた、異国風の豪華な品。
「首皇子《おびとのみこ》が、宮子さまへ贈られたそうです」
宮子さまは琵琶をそっと撫で、寂しそうに笑った。
「皇子には……生まれてから、一度も会えていないの」
ぽつり、と落ちる声。
「会いたいわ。でも……もっと元気になってからでないと」
そう言って、寝台へ横になる。
父は、そんな宮子さまの髪を優しく撫でた。
「きっと良くなる」
兄たちは顔を曇らせる。
「赦せぬ……」
「先帝が冷たくしたせいだ」
その話は何度も聞いた。
宮子さまは、先帝から愛されず、心を病んだ。
だから藤原家は怒っている。
……というか。
毎回この話をして、結束を固めてる気もする。
すると父が、ふっとあたしを見た。
「光明子。お前のおかげで、宮子は回復している」
「え?」
「以前は一言も話さなかった。今では猫を撫でて笑う」
少しだけ。
胸が、あたたかくなった。
その時だった。
「宮子さま、お薬のお時間です」
侍女に促され、宮子さまが部屋を出る。
――そして。
空気が変わった。