転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
はあ、と息をひとつ吐いて、アシュリーは口を開いた。
「お言葉ですがお父様、戻ってきて、相手もいないのにどこへ行けと言うのです。自分で言うのも悲しいですが、わたしを貰ってくれるなどという奇特な方はもういないと思います」
ふたりには申し訳ないが、事実なのだから仕方ない。
この世界では十六歳で成人と見なされ、遅くとも二十歳までには結婚する。
成人した当初はこんな田舎の男爵令嬢でも貰い手はあったが、アシュリーが城勤めをしていると知るとその話はなかったことになり、そして行き遅れと言われるような年になった今、そう言った便りはほとんどない。
それでも行き遅れに片足をかけ始めたころには、妾や後妻にという話ならいくつかは来ていたのだ。だがそれもどうしようと頭を悩ませている間になくなり、気付けば来なくなっていた。
すでに片足を掛けるどころか、アシュリーは立派な行き遅れだ。跡継ぎは弟がいるし、このままで行けば、両親も結婚を諦めてくれるだろう。寂しいときもあるが、ひとりには慣れている。
その日を指折り数えて──と言ったらオーバーかもしれないが──待っていたのに、ここに来て結婚だなんて、たまったものではない。
そんな考えをしてしまうアシュリーが異質なのだと言うことは、本人もよくわかっていた。アシュリーが今のアシュリーでなければ、家を出て城勤めをすることもなく、政略結婚とは言え、しかるべきときに嫁いでいただろう。
だが、彼女は純粋な貴族の令嬢ではなかった。
幼いころに些細なことがきっかけで思い出した《前世》の自分の記憶。アシュリーの《前世》は貴族の令嬢などとは縁遠い、日本という国で生きた、ごく普通の会社員だった。
普通の一般家庭に育ち、小中と通い、高校、大学へと進学した。卒業後は地元の中小企業に就職した。事務職だったが、何かと他部署からのちまちまとした仕事が回ってくる部署で、常に慌ただしくしていた記憶しかない。
それがどうして転生し、新しい生を生きることになったのかはわからないが、まさかこんなマンガや小説のような出来事が自分に降りかかるなんて思ってもみなかった。
「お言葉ですがお父様、戻ってきて、相手もいないのにどこへ行けと言うのです。自分で言うのも悲しいですが、わたしを貰ってくれるなどという奇特な方はもういないと思います」
ふたりには申し訳ないが、事実なのだから仕方ない。
この世界では十六歳で成人と見なされ、遅くとも二十歳までには結婚する。
成人した当初はこんな田舎の男爵令嬢でも貰い手はあったが、アシュリーが城勤めをしていると知るとその話はなかったことになり、そして行き遅れと言われるような年になった今、そう言った便りはほとんどない。
それでも行き遅れに片足をかけ始めたころには、妾や後妻にという話ならいくつかは来ていたのだ。だがそれもどうしようと頭を悩ませている間になくなり、気付けば来なくなっていた。
すでに片足を掛けるどころか、アシュリーは立派な行き遅れだ。跡継ぎは弟がいるし、このままで行けば、両親も結婚を諦めてくれるだろう。寂しいときもあるが、ひとりには慣れている。
その日を指折り数えて──と言ったらオーバーかもしれないが──待っていたのに、ここに来て結婚だなんて、たまったものではない。
そんな考えをしてしまうアシュリーが異質なのだと言うことは、本人もよくわかっていた。アシュリーが今のアシュリーでなければ、家を出て城勤めをすることもなく、政略結婚とは言え、しかるべきときに嫁いでいただろう。
だが、彼女は純粋な貴族の令嬢ではなかった。
幼いころに些細なことがきっかけで思い出した《前世》の自分の記憶。アシュリーの《前世》は貴族の令嬢などとは縁遠い、日本という国で生きた、ごく普通の会社員だった。
普通の一般家庭に育ち、小中と通い、高校、大学へと進学した。卒業後は地元の中小企業に就職した。事務職だったが、何かと他部署からのちまちまとした仕事が回ってくる部署で、常に慌ただしくしていた記憶しかない。
それがどうして転生し、新しい生を生きることになったのかはわからないが、まさかこんなマンガや小説のような出来事が自分に降りかかるなんて思ってもみなかった。