イケメン義弟に何度お見合いをさせても、フラグを折って戻ってきてしまいます
「――で、どうでもよくないから憂さ晴らしにユクレール家へ来たと」
ルナリヤ・ユクレールが、呆れた顔を隠そうともせずアリスターシャへ小言を寄越す。
勝手知ったる他人の嫁入り先と、人払いのされた品のいい客間で、アリスターシャは大きく伸びをした。
「別にあんな不肖の弟なんて、どうでもいいわよ」
「素直じゃないんだから。――あの筋金入りのお姉さま大好き男が、商人のおじさんと結婚しなくていいよう動いてるんでしょう? 信じて待っててあげなさいよ」
「でも、明日で約束の半年になるのよ! なのに、なんっの連絡もないの!」
「ほらすぐ喚かない」
「他人事だから、そんな冷静なことが言えるのよ……」
アリスターシャは膝の上に抱えたクッションへ顔を伏せてしまう。
ルナリヤは、美しい白金髪が人目を惹くアリスターシャの数少ない友人だ。家族ぐるみで親交がある。アリスターシャと同い年なので、当然、既婚者だ。羨ましい。恋愛結婚なのも、ますます羨ましい。
「今まであなたに婚約者ができなかったのって、リンデンのおうちが貧乏っていうのもあるだろうけど、絶対別の原因よねえ……」
そう慰めてくれる、心優しい友なのである。別の原因とはアリスターシャの性格についてだろうか。難ありなのは自分が一番よく理解しているので、反論できない。
「いえ、まあ、そう思っておいた方が幸せかもね……。あ、実家からカイルを呼んであるから、セレンのことでも尋ねてみなさいよ。あの二人も、友達――みたいだし」
「いらないいらない、もう関係ないわよ、セレンなんて!」
「まあまあ、そうやけにならずに、ね?」
姉のように諭しながら背中を撫でてくれるルナリヤに、思わず抱きつく。
「ルナー! 大好きよ!」
「はいはい」
ひとしきり懐いていると、やがて先触れの侍女の呼びかけとともに、一人の青年が入室してきた。三白眼気味で目つきの鋭い、黒髪の男だ。整った顔立ちをしているが、険がある。第一印象はあまりよくないだろう。
抱き合っている女二人を見下ろして、心の底から嫌そうに口元を抑える。
「……あんまり二人で仲良くしてると、絶対怒られるぞ」
「誰が怒るっていうのよ、カイル」
反論するアリスターシャとは対照的に、ルナリヤは少し思案して、心もち体を離す。
「え?」
「お相手が嫉妬深いと大変よね」
「あ、旦那様ね。結婚してけっこう経つのに、仲がいいのね」
アリスターシャは居住まいを正し、カイル――カイルズ・ニルグを手招いた。カイルズはルナリヤの弟で、セレンナーグの学友でもある。
やっぱり渋い面持ちのまま近づいてきたカイルズは、
「あなたが私の婚約者になってくれれば話は早かったのよね。ニルグのおうち、財産持ちだし」
というアリスターシャのしみじみとした発言に、はっきりと目を剥いた。
「やめてくれ、セレンに殺される!」
カイルズの叫びに、ルナリヤが深く頷いたのを見て、アリスターシャはやっと気づいた。
――え、セレンの気持ちを知らなかったのって、本当に私だけだったの?
恐る恐る窺ってみると、二人揃って溜め息を吐かれた。
「昔からあからさまだったよなあ」
「ねえ。なんであの距離感で姉弟愛だと信じてたのか、逆に不思議よ。姉弟って、ふつう、我が家みたいな感じよ」
「あんまり変わらなくない?」
「あなたはね。問題はセレンの方よ!」
ルナリヤが頭を抱えてしまった。
その向かい側のソファに、やっと腰を下ろしたカイルズは、懐から一通の封筒を取り出す。リンデン家ではついぞ使われたことのない上質な紙だ。表書きは丁寧な飾り文字で書かれている。宛名はない。
「でも、ちょうどよかった。リンデン家を訪ねる手間が省けた」
「何、これ。招待状?」
「ああ、セレンからの預かりものだ」
今度はアリスターシャが苦々しい顔になる番だった。
「いらないわ。返しておいて」
「頼むから受け取ってくれ。でないと俺の命がない」
「殺されるとか命がないとか、さっきから物騒じゃない? セレンはそんな子じゃないわよ」
「だからあいつは、アリスタの前では巨大な猫を被ってるんだよ……」
この後は外せない予定が入っているのだと、冷めた紅茶を流し込み、慌ただしく帰っていったカイルズに押しつけられた封筒は、ひどく重たく感じられた。
夕食を一緒に、と誘ってくれるルナリヤへ丁重に辞去の意を伝え、自宅に戻ったアリスターシャは、一人きりの部屋で封を切る。
開いたカードには、一週間後に控えた公爵家主催の仮面舞踏会への招待の文言とともに、アリスターシャとロレインの名が記されていた。
ルナリヤ・ユクレールが、呆れた顔を隠そうともせずアリスターシャへ小言を寄越す。
勝手知ったる他人の嫁入り先と、人払いのされた品のいい客間で、アリスターシャは大きく伸びをした。
「別にあんな不肖の弟なんて、どうでもいいわよ」
「素直じゃないんだから。――あの筋金入りのお姉さま大好き男が、商人のおじさんと結婚しなくていいよう動いてるんでしょう? 信じて待っててあげなさいよ」
「でも、明日で約束の半年になるのよ! なのに、なんっの連絡もないの!」
「ほらすぐ喚かない」
「他人事だから、そんな冷静なことが言えるのよ……」
アリスターシャは膝の上に抱えたクッションへ顔を伏せてしまう。
ルナリヤは、美しい白金髪が人目を惹くアリスターシャの数少ない友人だ。家族ぐるみで親交がある。アリスターシャと同い年なので、当然、既婚者だ。羨ましい。恋愛結婚なのも、ますます羨ましい。
「今まであなたに婚約者ができなかったのって、リンデンのおうちが貧乏っていうのもあるだろうけど、絶対別の原因よねえ……」
そう慰めてくれる、心優しい友なのである。別の原因とはアリスターシャの性格についてだろうか。難ありなのは自分が一番よく理解しているので、反論できない。
「いえ、まあ、そう思っておいた方が幸せかもね……。あ、実家からカイルを呼んであるから、セレンのことでも尋ねてみなさいよ。あの二人も、友達――みたいだし」
「いらないいらない、もう関係ないわよ、セレンなんて!」
「まあまあ、そうやけにならずに、ね?」
姉のように諭しながら背中を撫でてくれるルナリヤに、思わず抱きつく。
「ルナー! 大好きよ!」
「はいはい」
ひとしきり懐いていると、やがて先触れの侍女の呼びかけとともに、一人の青年が入室してきた。三白眼気味で目つきの鋭い、黒髪の男だ。整った顔立ちをしているが、険がある。第一印象はあまりよくないだろう。
抱き合っている女二人を見下ろして、心の底から嫌そうに口元を抑える。
「……あんまり二人で仲良くしてると、絶対怒られるぞ」
「誰が怒るっていうのよ、カイル」
反論するアリスターシャとは対照的に、ルナリヤは少し思案して、心もち体を離す。
「え?」
「お相手が嫉妬深いと大変よね」
「あ、旦那様ね。結婚してけっこう経つのに、仲がいいのね」
アリスターシャは居住まいを正し、カイル――カイルズ・ニルグを手招いた。カイルズはルナリヤの弟で、セレンナーグの学友でもある。
やっぱり渋い面持ちのまま近づいてきたカイルズは、
「あなたが私の婚約者になってくれれば話は早かったのよね。ニルグのおうち、財産持ちだし」
というアリスターシャのしみじみとした発言に、はっきりと目を剥いた。
「やめてくれ、セレンに殺される!」
カイルズの叫びに、ルナリヤが深く頷いたのを見て、アリスターシャはやっと気づいた。
――え、セレンの気持ちを知らなかったのって、本当に私だけだったの?
恐る恐る窺ってみると、二人揃って溜め息を吐かれた。
「昔からあからさまだったよなあ」
「ねえ。なんであの距離感で姉弟愛だと信じてたのか、逆に不思議よ。姉弟って、ふつう、我が家みたいな感じよ」
「あんまり変わらなくない?」
「あなたはね。問題はセレンの方よ!」
ルナリヤが頭を抱えてしまった。
その向かい側のソファに、やっと腰を下ろしたカイルズは、懐から一通の封筒を取り出す。リンデン家ではついぞ使われたことのない上質な紙だ。表書きは丁寧な飾り文字で書かれている。宛名はない。
「でも、ちょうどよかった。リンデン家を訪ねる手間が省けた」
「何、これ。招待状?」
「ああ、セレンからの預かりものだ」
今度はアリスターシャが苦々しい顔になる番だった。
「いらないわ。返しておいて」
「頼むから受け取ってくれ。でないと俺の命がない」
「殺されるとか命がないとか、さっきから物騒じゃない? セレンはそんな子じゃないわよ」
「だからあいつは、アリスタの前では巨大な猫を被ってるんだよ……」
この後は外せない予定が入っているのだと、冷めた紅茶を流し込み、慌ただしく帰っていったカイルズに押しつけられた封筒は、ひどく重たく感じられた。
夕食を一緒に、と誘ってくれるルナリヤへ丁重に辞去の意を伝え、自宅に戻ったアリスターシャは、一人きりの部屋で封を切る。
開いたカードには、一週間後に控えた公爵家主催の仮面舞踏会への招待の文言とともに、アリスターシャとロレインの名が記されていた。