逃げられるものならお好きにどうぞ。
私はいまだに笑い続けている黒瀬くんの頬っぺたを「いつまで笑ってるの」って軽く抓ってから、その腕の中に飛び込んだ。
バニラとホワイトムスクみたいな、甘くて柔らかな匂い。
黒瀬くんの匂いだ。……すごく安心する。
久しぶりに感じる温もりに、私はそのまま身をゆだねた。
「百合子さん? もしかして、寝ちゃった? ……おやすみ」
そのまま眠ってしまった私を、黒瀬くんはベッドまで運んでくれた。
そして隣で寄り添うようにしてベッドの海に沈んだ黒瀬くんは、私を抱きしめたまま眠りについていた。
――翌朝。カーテンの隙間から漏れてくる陽光で、私は目を覚ました。
そのまま泊まっていたと思っていた黒瀬くんは、私が目を覚ました時には姿を消していた。
もう帰ってしまったのだろうと少しだけ寂しく感じていれば、それから二十分ほどして、黒瀬くんは再び家を訪ねてきた。――その手に、私が好きなカフェのロゴが入った紙袋を持って。