逃げられるものならお好きにどうぞ。
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外観からだけでも格式高く洗練された美しさが感じられる旅館は、小さな門を潜って一歩足を踏み入れれば、肌に触れる空気が一瞬で変わるのが分かった。
暖色系の灯りに包まれた広いロビーに、カウンターに飾られた綺麗な生け花。
京都にやってきたのだという実感がわいてきて、高揚感にワクワクと胸が弾みだす。
「百合子さん、目がキラキラしてる」
そんな私の心の内に直ぐに気づいたらしい黒瀬くんには可笑しそうに笑われてしまったけど、今はそれも気にならないくらいにテンションが上がっている。
「だって、こんな素敵な旅館に泊まれる機会なんて中々ないから……!」
「それじゃあ一緒に、楽しい思い出をたくさん作らなくちゃね」
「うん、そうだね。ご飯も温泉も楽しみだし……黒瀬くんの浴衣姿が見れるのも、楽しみだな」
「そんなの俺もだよ。百合子さんの浴衣姿なんて、想像するだけでもめちゃくちゃ可愛いから。浴衣コンテストがあったら、絶対宇宙で一番になれるよ」
「ふふ、まさかの宇宙規模の浴衣コンテストなの?」
他愛のない雑談で笑い合っていれば、出迎えてくれた着物姿の女中さんに、微笑ましそうなまなざしを向けられていることに気づく。
「ようこそおこしやす。……ふふ、お二人があまりにも可愛らしくて、つい見入ってしまいましたわぁ。存分に寛いでいってくださいね」
私たちの荷物を受け取ってくれた女中さんは、嫋やかな笑みを湛えたまま、綺麗な一礼をして去っていった。