逃げられるものならお好きにどうぞ。
「……あぁ、あいつか」
椿くんは年明け、飲みの帰りに迎えにきてくれた時のことを思い出したみたい。
だけどその表情は面白くなさそうだ。思いきり顔を顰めている。
「前も思ってたんだけど、百合子さんはそいつと仲が良いの?」
「特別仲が良いってことはないけど……同じ部署だし、仕事仲間としては頼りにしてるかな」
話しながら歩いていれば、私の家に到着していた。
今日は椿くんのリクエストで、グラタンを作る予定になっている。材料は昨日のうちに椿くんと買いに行ってあるし、準備もばっちりだ。
「椿くん、グラタン作るのに少し時間がかかりそうだから、先にお風呂に入ってても……」
部屋の明かりをつけて後ろにいる椿くんの方に振り返れば、腕を引かれて抱きよせられる。
突然のことに驚いて顔を上げれば、眼前に椿くんの綺麗な顔が迫っていた。