逃げられるものならお好きにどうぞ。


「何も変わりないです。毎日元気に過ごしてますよ」

「……改めて、あの時は本当にすまなかった。嬢ちゃんの傷つくところは見たくねぇなんて言っときながら、早々に危険な目に遭わせちまって」



皇さんに、申し訳なさそうな、悔いたような表情で謝罪される。

どうやらあの時のことを、いまだに気に病んでいたらしい。



「謝罪はあの時にもいただきましたし、本当に気にしてないですから! それに、椿くんや皇さんたちと一緒に旅行に行くことを決めたのは私です。私は皆さんと一緒に旅行に行けてすっごく楽しかったんですけど……皇さんは、楽しくなかったですか?」

「……いや、楽しかったよ」

「それならよかったです。もう過ぎたことですし、それにさっきも言いましたけど、決めたのは私で、皇さんが責任を感じる必要なんて全くありませんから。ほら、終わりよければすべてよしっていいますし」



静かに私の話を聞いていた皇さんは、フッと息を漏らすように笑う。



「やっぱり嬢ちゃんは、強い女だな」

「え?」

「なぁ、嬢ちゃん」

「……何ですか?」

「もし、本当に欲しいもんが目の前にあって、だがそれがすでに他の誰かのもんだったとしたら……嬢ちゃんならどうする?」



スッと目を細めた皇さんは、大きな掌で私の頬に触れてきた。だけどその手はすぐに離れていって、最後にぽんと頭を撫でられる。

その表情が、声音が、私を見つめるまなざしが、確かに熱を帯びていることに気づいてしまって。


――私は息を呑んで、固まってしまった。

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