逃げられるものならお好きにどうぞ。
「あれ、珍しいね。皆揃ってどうしたの? 仕事関係の話?」
店にひょっこり顔を出したのは、話題の渦中の人物でもある――椿くんだった。
顔を合わせるのは、数日前にホテルで別れて以来になる。
そして、たった今判明したことだけど、どうやら椿くんは、皇さんたち三人のことはしっかり覚えているらしい。つまり、この場では私のことだけを忘れているってことだよね。
……うん。思った以上にダメージがでかくて、普通に落ち込んでしまう。
「……椿。アンタ、百合子ちゃんのことを忘れたっていうのは本当なの? というか、今までどこで何してたわけ?」
「忘れたって何のこと? それに、どこで何してたって……普通にフラフラしてただけだよ。実は俺、持ってたスマホを失くしちゃって新しくしたんだよね。シフトのこととかも全然覚えてないんだけど、多分無断欠勤しちゃってただろうと思って、マスターに謝りにきたんだ」
美代さんと話している椿くんの顔をジッと見つめていれば、私の視線に気づいたのか、目がバチリと合ってしまった。