逃げられるものならお好きにどうぞ。
「指定された場所ってのはどの辺りなんだ? 遠ければ車を出すが」
「いえ、ここから徒歩で十五分くらいの場所なので、大丈夫です」
「そうか」
「……あの、本当に送り届けてくれるんですか?」
「あぁ、もちろんだ」
「ありがとうございます。でも一人でって言われているので、本当に近くまでで大丈夫ですから」
「……あぁ、分かってるさ」
頷いた皇さんは、しばらく黙ったまま歩いていたけど、おもむろに口を開いた。
「……なぁ、嬢ちゃん。前に俺が言ったこと、覚えてるか? 堅気の人間が半端に首突っ込むもんじゃねぇ、ってやつだ」
「……はい、覚えてます」
「ソイツらは反社の人間だって言ってたんだろ? それがどういう存在なのか、嬢ちゃんも理解はしてるんだよな?」
「はい、きちんと理解してます。でも……ごめんなさい。それでも私は、行かなくちゃいけないんです」
「……行かせないって言ったら、どうする?」
「え?」
「椿のために、これ以上嬢ちゃんが苦しむ必要はねぇだろ。だから俺は……嬢ちゃんを、行かせたくない」
皇さんに手首をつかまれた。
熱くて、大きな手。握る力が強くて、少し痛いくらいだ。
顔を上げれば、皇さんは何かを訴えるような熱っぽいまなざしで、私を見下ろしている。