逃げられるものならお好きにどうぞ。
「俺さ……施設で育ったって話は、前にもしたよね?」
「……うん」
「家族にも捨てられて、ずっと孤独で……だから、誰でもいいからそばにいてほしいと思ってた。だけど心のどこかでは、俺なんて誰からも愛されないと思ってたし、愛を知らない俺なんかが、誰かを愛することができるはずもないって、そう思ってもいたんだ」
“……誰も本当の俺に興味なんてないから。皆最後には、本当に大切な人のところに行っちゃうからね”
――不意に、出会ったばかりの頃、寂しそうな顔をした椿くんが言っていた言葉を思い出した。
「だけどさ、百合子さんと出会って、俺の世界は変わったんだ。百合子さんが、俺に愛を教えてくれた」
「……そんな風にストレートに言われると、ちょっと恥ずかしいんだけど」
「だって事実だろ? ……あぁ、それにね、理由も分かったよ」
「理由って?」
「この前、百合子さんを家まで送り届けてる時に話したこと。覚えてる?」