Fahrenheit -華氏- Ⅲ
葵さんと共にテーブルに戻るとマナミさんと伊藤さんは何かの話で盛り上がっていた。
「マナミさんから今日は三回目のデートと窺ったのですが、私もお二人のなれそめを聞いても?」とビールを飲み聞くと
「俺も似たようなもんかな。マナミが一人でバーに来てて声掛けたんだ」
「マナミさんが?一人でバーに?」
「あ、はい。実はあたしお酒大好きで」マナミさんが恥ずかしそうに笑う。
「瑠華ちゃんと一緒…」と最後まで言い切らないうちにあたしは葵さんの手の甲をぎゅっとつねった。葵さんは一瞬だけ顔を歪めたものの「えへへ」とすぐに軽く笑い返してくる。
「意外でした。今度ご一緒してくださいませんか?私、あまり東京を知りませんので」と言うとマナミさんが目をぱちぱちさせ、しかしすぐに
「是非!」と頷いた。
「東京を知らないってどこか地方から出てきたの?そんな感じには見えないけど」
と突っ込んだのは伊藤さんで
「NYからです」とここは素直に答えた。
「NY!へぇ!どうりで洗練されてる感じだ」と伊藤さんは驚いたジェスチャーなのか胸元をそっと押さえた。
「柏木補佐ね、英語もぺらぺらなのよ」
「だって殆どNYだったから~」と葵さんが嫌味じゃない突っ込みを入れマナミさんが笑った。葵さんは場の空気を掴むのが上手い。そのおかげか意外と酒が進んだ。
何杯目かのビールが伊藤さんに運ばれてきて、彼は
「ごめん、ちょっとトイレ」と席を立った。
少し時間を置いてあたしも「私もお手洗いに」と席を立つ。葵さんと目を合わせると小さく頷き合った。