Fahrenheit -華氏- Ⅲ
俺たちは時間差で資料室を出ることにした。
ここでまたも二人で戻ったら瑞野さんに怪しまれる。
と言うわけで先に瑠華を戻らせたわけだが―――
念には念を入れて10分後に戻ることにして、ブースに戻ったが俺が戻っても三人が三人ともいつも通りの仕事をしていて特に変わったことはなかった。それにちょっとほっ。
としていたがコピーを取りに行った際、偶然にもすぐ後ろに瑞野さんがコピーかファックスを控えていて、俺の背後からこそっと
「随分長い柏木補佐と”会議”でしたね」
クスッ喉の奥で笑う声は昨日聞いた声と同じもので俺の背中に嫌な物が伝い落ちた。
全部――バレてる。
何で……
それはまるで盗聴器並みだが、慌ててスーツのあちこちを探るもそれらしいものは何も出てこない。
「盗聴器なんて犯罪ですよ、は・ん・ざ・い」瑞野さんは楽しそうに笑って、「使うのは機械じゃなくて、こ・こ」と可愛らしく頭を指さし。
しかしすぐに声を低めると
「あたしの大好きな柏木補佐に変なこと吹き込まないでくださいよ」と俺の方をぎろりと睨んできた。
「吹き込んでねーよ、俺は仕事してただけ。し・ご・と」俺だってヤられっぱなしじゃいられねぇ。
精一杯の威嚇をしたつもりだが
「部長、コピーならあたしにお任せください」と途中だったコピー用紙をさっと瑞野さんが取り上げ、またもにこにこ笑顔に戻る。
やっぱり、あなどれない。
――――――
――
20XX年12月24日 土曜日
結局、瑞野さんに対応する術を何も見いだせず、とうとうこの日を迎えてしまった。
内藤チーフから頼まれていたAKIYAMA企画にカレンダーを運んでいく、と言う時間まであれこれ考えたが瑞野さんの提案を受け入れず瑠華を取り戻す方法は見つからなかった。先方のAKIYAMA企画は担当者の都合で18:00を指定している。
目黒にあるAKIYAMA企画まで車で行けば20分も掛からないが、渋滞を予想して俺は17:00に出ることにした。