Fahrenheit -華氏- Ⅲ

この男の本性を知らない女ならイチコロだろうが、お生憎さま。この男に一瞬でも気を許しては、隙を作ってはダメ。


あたしは対になっている一人掛けソファに腰掛けると、マックスが向かい側から苦笑いを寄越してきた。


「You're a very stranger. Come sit next to me.(随分他人行儀だな。隣に来いよ)」と自分の隣をトントンと手で叩く。


「I'm a stranger. You don't owe me anything.(他人行儀じゃなく他人なの。行く義理はないわ)」そっけなく言って腕と足を組むと


「That's a cold attitude.(冷たいな)」とマックスはまたも肩をすくめた。


その時だった。


「Mom?(ママ?)」主寝室からピンクの寝間着姿のユーリが眠そうに目を擦らせながら出てきた。


「July? What's wrong? Did I bother you?(ユーリ?どうしたの?煩かった?)」とユーリに駆け寄ると、ユーリはゆるゆる首を横に振り「I had a dream that my mom was gone again.(ママがまたいなくなっちゃう夢を見たの)」とあたしの足にぎゅっと抱き着いてくる。


ああ、なんて可愛い子。


あたしの子。


怖い思いをさせて―――ごめんね。でも―――ママはもうずっとユーリの隣に居られる身じゃないの。


本当にごめんなさい。


「Don't worry, I'll be here all night. I'm going to July's room later, can you sleep alone until then?
(大丈夫よ、今日は一晩中いるから。あとでユーリのお部屋に行くからそれまで一人で寝れる?)」と聞きながらユーリの額を撫でるとユーリはこくりと頷いた。


大人しく寝室に行くかと思ったがユーリはあたしの手を引き、マックスの隣まで歩いていくと


「Mom and Dad, be good friends. Daddy loves mommy.
(ママとパパ、仲良くしてね。パパはママが大好きだから)」と言いあたしをマックスの隣に座らせた。


If July says so, I don't blame .(ユーリに言われたら仕方ないな)マックスの声が聞こえてきそうで思わず彼から顔を逸らしたが、ユーリのお願いごとは聞いてあげたい。
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