Fahrenheit -華氏- Ⅲ

”今仕事終わったー、瑠華ちゃん起きてる?”と短い一文に、あたしは返信よりも電話を掛けていた。


『瑠華ちゃん?電話くれるって嬉しいな~』仕事終わりなのかそれともいつものテンションなのか葵さんの声は弾んでいた。


しかし無駄話をしている時間はない。


「葵さん、つかぬことをお伺いしますが今日お酒は召されましたか?」


『ううん、キャストの卓にシャンパン届けるので精いっぱい』葵さんはうんざりしたような声をあげた。


運転免許証は前に見たから運転はできるだろうけど一応


「車の運転は得意ですか?」と念のため聞いてみた。


『うん、割とどんな車でも。キャストを送迎するのも俺の仕事だからね~』


「そうですか。では今から言う場所まで来てくれますか?お願いしたいことがございまして。タクシー代は出します」



―――――

――


葵さんはそれから15分ほどでこのホテルに到着した。葵さんが到着するまであたしは車の前で待つことにした。葵さんはあたしの車を知らない。空を見上げるとさっき降っていた雪はすっかり止んでいた。しかし雪の名残なのか地面から這い上がる冷気に身震いしてると


「頼みたい事って何?」と車の前で立っていたあたしに手を振りながら葵さんはにこにこやってきた。


良かった、とりあえずはこの寒さから解放されそう。


「この車、運転できますか?私アルコールが入ってるので運転できなくて」


と素直に言うと


「エ……LFA!!?」とあたしが体をずらした際に見えたあたしの車を見て葵さんは目を丸めた。


やっぱり葵さんでも無理か…とちょっと諦めが入ったが


「これ!マジで運転していいの!?てか瑠華ちゃんの車!?」と葵さんは目をきらきらさせている。


「え、ええ。無理なら断ってくださって結構…」言いかけた言葉を


「無理なわけないじゃん!すっげぇ!俺LFA運転するのはじめて!」と葵さんはあたしの車の周りをまるで子供のようにはしゃいだ様子でぐるぐる回っている。それだけで寒さが和らいでいくのが分かったが


事故だけは気を付けなくては。


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