Fahrenheit -華氏- Ⅲ
ナビで設定した時刻より少しだけ早くつくことができた。
葵さんの運転が思いのほかうまかったってのもある。
「じゃー、俺ここで待ってるから。いつでも連絡してよ」と葵さんはしつこい。
「流石に私とミミちゃんがつかみ合いの喧嘩に発展することはないでしょう。お互いいい大人だし」
それでも葵さんはどこか心配そうに
「んー…」と声を漏らした。
「では行ってきます」
バタンと扉を閉じると同時に
「健闘を祈る」と葵さんの言葉が聞こえてきて、何故だか笑ってしまいそうになった。
まるでアニメの台詞みたいね。
問題の4706号室のチャイムを鳴らすと、啓がすぐ顔を出した。着衣に乱れはないし横になって寝た感じも見受けられなかった。
しかし
「瑠華っ!!?」
啓はあたしが来るとは予想すらしてなかったのかひたすら驚いた様子で固まっていた。
あたしはどこで誰かに見られてないかそれが心配で啓の返事を聞かず
「失礼します」とやや強引と呼ばれる具合に勝手に部屋に入り込んだ。
部屋はマックスが宿泊しているホテルのワンランク下と言ったところだろうが、落ち着いた家具や調度品は品が良いしロケーションも良い。
「あの…瑠華!?何で君がここに?」とあたしの後を慌てて追いかけてきた啓。
「あなたに会いたくて」
無表情に言うと啓は目を開いた。
「――――と言いたいところですが、危険を冒してまできたのには違う理由があります。瑞野さんは今もここに?」
と聞くと啓は痛いものでも堪えるように額に手をやった。
「やっぱSNS見た?それでこの場所を?」
「私の質問に答えてください」相手に隙を与えることなく言うと啓は観念したように腕をだらりと下げ、
「こっち」とあたしの前を歩き出した。