真昼の星空
「人気のモデルさんが私のニット着てくれて、少しずつ仕事増えて。」

雅人黙って聞いている。

誇らしそうな顔。

「で、会社で働きながら今の場所で毛糸屋さんと編み物教室はじめて。だんだん
両立が難しくなって。それで会社やめて、毛糸屋さんやってるうちに出版の話が来てって感じ。」

雅人静かに言う。

「ようちゃん凄いね。」

陽首を振る。

「全然。」

少し笑う。

「自分のやりたいこと優先したのは私だから。」

雅人の目を見る。

「まさくんはなんにも責任感じないでね。」

雅人すぐ答えられない。

少しして言う。

「…うん。」

陽見る。

雅人続ける。

「でも凄いよ。ほんとに。」

陽止まる。

「え?」

「俺が好きだった人が、自分の夢叶えてるって。」

「なんか嬉しい。」

陽の目に涙が浮かぶ。

雅人静かに言う。

「でもさ。」

「ようちゃんが隣にいない10年は長すぎた。」

陽息が止まる。

雅人続ける。

「もう離したくない。絶対に。」

沈黙。陽ももう二度と離れたくないと思っている。

2本目のワインも半分になる頃。

「本は3冊目?」

「そう。」

陽頷く。

「今回のイベントのは3冊目。」

「今4冊目の準備してるよ。」

雅人嬉しそうに笑う。

「すごいな。」

急に立ち上がる。

「ちょっと待って。」

別の部屋へ行く。

戻ってきた雅人の手には――

陽が編んだニットたち。

セーター。

マフラー。

帽子。

大事そうに抱えている。

「わぁ!」

陽思わず立ち上がる。

「ほら、全部あるでしょ?」

少し得意そうに言う。

陽触れる。

「…ほんとだ。」

1着1着、

懐かしむように眺める。

指で編み目をなぞる。

(この模様…)

(この毛糸…)

(あの頃の私だ)

静かに全部抱きしめる。

ぎゅっと。

目を閉じる。

「まさくんの匂いだ。」

「ちゃんと生きてたんだね。」

雅人声が出ない。

「これ着て旅してたんだ」

雅人頷く。

「うん。」

「寒い国多かったから。」

少し笑う。

「守られてた。」

陽の目から涙がこぼれる。

「私も…」

少し詰まる。

「まさくんが着てくれるのがうれしくて、沢山編んだ。」

沈黙。

雅人ゆっくり言う。

「知ってる。」

ニットを抱きしめた陽。

その陽ごと――

雅人が抱きしめる。

強く。

でも壊れ物みたいに優しく。

陽息をのむ。

雅人耳元で言う。

「ようちゃん、愛してる。」

時間が止まる。

10年前言えなかった言葉。

陽の目から涙がこぼれる。

雅人は陽の頬に触れる。

ゆっくりキスをする。

確かめるように。

陽目を閉じる。

逃げない。

受け入れる。

(あぁ…)

(まさくんだ)

懐かしい温度。

懐かしい優しさ。

忘れたことなんてなかった感触。

涙があふれる。

キスが終わっても離れない。

額を合わせる。

雅人小さく聞く。

「…泣いてる?」

陽笑いながら泣く。

「遅いよ。」

雅人苦笑する。

「ごめん。」

陽首を振る。

「違う。」

涙を拭きながら言う。

「会いに来てくれてありがとう。」

雅人もう一度抱きしめる。

「もう離れない。」

陽小さく答える。

「うん。」
< 22 / 78 >

この作品をシェア

pagetop