真昼の星空
お昼を食べ損ねた陽は、午後の講義を終えるとユリに付き合ってもらい、大学のそばの小さなレストランに入っていた。

夕方に近い時間の店内は落ち着いていて、窓からやわらかな光が差し込んでいる。

「ごめんね。二回目のランチ付き合わせちゃって」

陽が申し訳なさそうに言うと、ユリはフォークを持ったまま大きく手を振った。

「大丈夫! いくらでも食べられるから!」

二回目とは思えない勢いで、普通に食べている。

陽は思わず笑った。

ユリは口いっぱいに頬張ったまま、思い出したように言う。

「ところで、ミスコンのことでしょ? さっきの先輩」

「うん」

陽はスープをひと口飲んで、小さく息をついた。

「どうするの?」

「出ないよ」

迷いのない声だった。

「アナウンサー目指してないもん。一枠もったいないでしょ?」

さらりと言って、パンをちぎる。

「それに、めんどくさいし。準備とか」

少し笑ってから、静かに続けた。

「普通に暮らしたい」

それが本心だった。

目立たなくていい。
騒がれなくていい。
ただ静かに、いつもの毎日を過ごしたかった。

ユリは頷きながら、去年のことを思い出す。

「去年も断ってんのに、しつこいよね」

陽も肩をすくめて笑う。

「ほんとに」

「じゃあ今度から先輩が探してたら、適当に断っとくね」

「ありがとう。お願いします」

陽は素直に頭を下げた。

その姿を見ながら、ユリは思う。

美人で、性格もいいのに、嫌われたり妬まれたりしないのは、こういうところなんだろうと。

偉そうにしない。
誰にでも自然体で、やさしい。
困った時にはちゃんと頼って、感謝もする。

だからみんな、陽と友達になりたくなる。

気づけば人が集まり、輪の中心にいるのに、本人だけがそれに無頓着だった。

駅まで並んで歩いていると、見慣れた神社の前に差しかかった。

夕暮れの空は薄く群青に染まり、鳥居の向こうに灯りがともり始めている。

陽は足を止めた。

「ちょっと待って」

そう言って、いつものように通りから静かに手を合わせる。

ユリはその横顔を見て、くすっと笑った。

「陽、まだお願いしてるの?」

陽は目を閉じたまま、小さく頷く。

「なんか進展ないの?」

その問いに、陽は手を下ろして少し考えるような顔をした。

「ん?」

それから、照れくさそうに笑う。

「好きかもしれない、から……好きになった」

ユリは目を丸くした。

「そうなんだ」

思わず顔をのぞき込む。

「それだけ?」

「うん」

陽は短く答え、耳たぶだけが少し赤い。

ユリはにやりと笑った。

「ねえ、雅人は?」

「え? まさとくん?」

陽がぱっと振り向く。

誰にも言っていないはずなのに、どうして名前が出てくるのか。
戸惑いが、そのまま顔に出ていた。

けれどユリには、その表情が

なんで雅人が急に出てくるの?

と言っているように見えた。

あれ、違うのか。

少しだけ首をかしげ、それから笑って肩をすくめた。

「まあ、いいや」

ユリも神社の方へ向き直り、陽の隣で手を合わせる。

「私も陽の片思い、応援するよ」

そして、わざと聞こえるように声に出した。

「陽の片思いが実りますように」

陽は思わず吹き出しながら、もう一度手を合わせる。
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