ハートのラテアートは勘違いじゃなかったらしい。
✴
――ある日。
取引先との打ち合わせから戻る途中で、
ちょうど店から出てくる彼を見かけた。
(私服だ!)
カフェの制服とは違う、
やわらかい緑色のシャツを羽織った姿が新鮮だった。
最近の若い男の子らしい、ゆったりとしたシルエット。
意外と鍛えられていて、
普段は制服で隠れている腕に、思わず目がいってしまう。
「!」
足が止まった。
彼の後ろから、若い女の子が出てきた。
華やかな雰囲気で、2人が並ぶと絵になる。
——そのまま、並んで歩いていく。
「あ」
彼と目が合ってしまった。
私は慌てて下を向いて、急ぎ足ですれ違う。
……なんとなく。
『翠さん』と、呼ばれたような気がした。
でもきっと違う。
たぶん、この前の彼が浮かんだだけ。
胸が沈んで、ざわついた。
そんな自分の状態に、ハッキリ言ってショックだった。
あのコーヒーショップは、仕事の合間に立ち寄るだけの場所。
店の雰囲気とコーヒーの味が気に入ってる。
癒されただけ。
それ以上を望むつもりはない。
(そもそも、年下に興味を持つなんて有り得ない)
オレンジ色に染まったビル街。
建物の窓ガラスに映る私の姿が目に入る。
灰色ばかりを選んできた私は、
どう見てもハートのラテアートが似合わないと思った。
(年下に興味を持たれるのも、有り得ない)
「いい歳して……やだな」
ラテアートひとつで浮かれて。
ひどく滑稽で、情けない。
ガラスに映る自分の姿に、しかめっ面をしてみた。
昼間はまだ、じっとりした暑さが続いている。
でも夕方には、少しだけ涼しい風が吹いてくる。
夏が、急ぎ足で終わっていくんだなと思った。
(後編へ続く)
――ある日。
取引先との打ち合わせから戻る途中で、
ちょうど店から出てくる彼を見かけた。
(私服だ!)
カフェの制服とは違う、
やわらかい緑色のシャツを羽織った姿が新鮮だった。
最近の若い男の子らしい、ゆったりとしたシルエット。
意外と鍛えられていて、
普段は制服で隠れている腕に、思わず目がいってしまう。
「!」
足が止まった。
彼の後ろから、若い女の子が出てきた。
華やかな雰囲気で、2人が並ぶと絵になる。
——そのまま、並んで歩いていく。
「あ」
彼と目が合ってしまった。
私は慌てて下を向いて、急ぎ足ですれ違う。
……なんとなく。
『翠さん』と、呼ばれたような気がした。
でもきっと違う。
たぶん、この前の彼が浮かんだだけ。
胸が沈んで、ざわついた。
そんな自分の状態に、ハッキリ言ってショックだった。
あのコーヒーショップは、仕事の合間に立ち寄るだけの場所。
店の雰囲気とコーヒーの味が気に入ってる。
癒されただけ。
それ以上を望むつもりはない。
(そもそも、年下に興味を持つなんて有り得ない)
オレンジ色に染まったビル街。
建物の窓ガラスに映る私の姿が目に入る。
灰色ばかりを選んできた私は、
どう見てもハートのラテアートが似合わないと思った。
(年下に興味を持たれるのも、有り得ない)
「いい歳して……やだな」
ラテアートひとつで浮かれて。
ひどく滑稽で、情けない。
ガラスに映る自分の姿に、しかめっ面をしてみた。
昼間はまだ、じっとりした暑さが続いている。
でも夕方には、少しだけ涼しい風が吹いてくる。
夏が、急ぎ足で終わっていくんだなと思った。
(後編へ続く)
