ハートのラテアートは勘違いじゃなかったらしい。


――ある日。

取引先との打ち合わせから戻る途中で、
ちょうど店から出てくる彼を見かけた。

(私服だ!)

カフェの制服とは違う、
やわらかい緑色のシャツを羽織った姿が新鮮だった。

最近の若い男の子らしい、ゆったりとしたシルエット。

意外と鍛えられていて、
普段は制服で隠れている腕に、思わず目がいってしまう。

「!」

足が止まった。

彼の後ろから、若い女の子が出てきた。

華やかな雰囲気で、2人が並ぶと絵になる。

——そのまま、並んで歩いていく。

「あ」

彼と目が合ってしまった。

私は慌てて下を向いて、急ぎ足ですれ違う。

……なんとなく。
『翠さん』と、呼ばれたような気がした。

でもきっと違う。

たぶん、この前の彼が浮かんだだけ。

胸が沈んで、ざわついた。

そんな自分の状態に、ハッキリ言ってショックだった。


あのコーヒーショップは、仕事の合間に立ち寄るだけの場所。

店の雰囲気とコーヒーの味が気に入ってる。

癒されただけ。

それ以上を望むつもりはない。

(そもそも、年下に興味を持つなんて有り得ない)

オレンジ色に染まったビル街。
建物の窓ガラスに映る私の姿が目に入る。

灰色ばかりを選んできた私は、
どう見てもハートのラテアートが似合わないと思った。

(年下に興味を持たれるのも、有り得ない)

「いい歳して……やだな」

ラテアートひとつで浮かれて。

ひどく滑稽で、情けない。

ガラスに映る自分の姿に、しかめっ面をしてみた。


昼間はまだ、じっとりした暑さが続いている。
でも夕方には、少しだけ涼しい風が吹いてくる。

夏が、急ぎ足で終わっていくんだなと思った。


(後編へ続く)
< 7 / 7 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

観覧車が止まった夜、片想いが動き出した

総文字数/3,943

恋愛(オフィスラブ)9ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
観覧車という特別な空間で、 片想い中の相手と、距離が近づいていく様子を書いたお話です。 初めての投稿です。 どうぞよろしくお願いします。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop