2年C組40番 「完全犯罪は成立するのか?」

山田亜紀



褒められるのが好きだった。
パパとママは優しくて仲が良くて,たくさん褒めてくれた。
私が算数のテストで百点をとったとき。
私が自転車を補助なしでこげたとき。
私がママのお皿を洗ったとき。
私がパパを玄関までいってらっしゃいしたとき。
私が受験に合格したとき。
私が人を殺したとき。



暑い。

夏の始まりは終わりの合図だといつも思う。
年々更新される最高気温に,この世の絶望に近いものを感じる。きっと地球が怒っているからだろう。
高校一年生の夏は,何もしなかった。
ただ塾に通って,休みの日は家でダラダラ。
去年は受験で行けなかった家族旅行は楽しかったけど,それ以外はあんまりない。
愛ちゃんと遊んで,クラスの子と遊んで,おばあちゃんに会いに行って,それ以外は塾と睡眠。

だから,休み明け,クラスの子が「小説を書いたんだ」と言ったときには,自分の行動を恥じた。
その子は出席番号15番の佐藤くんで,話したことはなかったけど顔はわかった。
いつもふざけているような子で,私なんかよりも地頭で生きているんだろうなって感じの子だった。
でも今回ばかりは私の負け。
佐藤くんは,小説家になりたいって夢を叶えるために,小説を書いて雑紙などの応募記事を元に送り続けているらしい。残念ながら今まで一次選考で落ちてしまっているらしいけど,そんなの今はどうでもいい。
なるほど,勉強と遊び以外にも時間を費やす方法はあるんだ。なるほどなるほど。
確かに,小中学生の頃は毎年自由研究をやっていた。読書感想文も書いた。それなら,私にもできそうだ。

私は見た目以上に野暮である。野望もある。

誰もしたことのない自由研究をしよう。

高校一年生の秋である。ダジャレではない。
山田亜紀,15歳の決心である。



小学二年の頃,クラスで唯一算数のテストで100点をとってから,私の立ち位置は優等生になった。
成績優秀,品行方正,八方美人。ここに容姿端麗が加われば完璧だが,四字熟語にお世辞なんて言われたくない。
中学生くらいまでは,私は大人っぽかったらしい。
だから学級委員なんてやったりして,それなりに青春を過ごす。
ただ,今ではただの子供だ。

理由は2つ。
1つは,私が大人っぽい理由なんて,精神年齢と実年齢とが合わなかっただけであり,実年齢が精神年齢に追いついてしまったということ。
2つは,私は成長したくなくなったということ。
身長は中二で止まったけど,本当はずっと前から止まってほしかった。だって,大きくても私はかっこよくなれないのを知っていたから。だから,せめて小さいままでいて,見た目だけで私を判断して,私は幼い弱い子だって思ってほしかった。しかし,女性の平均身長を抜かしてからは,もう諦めた。私は今日も,優等生である。

優等生である。

三者面談で1番最初に言われるセリフは,亜紀さんは大変真面目で助かってます,だった。
じゃあ,私が急に暴れ出したら先生はどうするの?
ふざけて聞いても,山田さんだったら許せるかもなぁなんて皆笑っていた。ママも笑っていた。この子,昔から頭がよくて。ママの外用のつくった声は嫌いだったけど,ママのことは大好きだった。

クラスにいる何人かの問題児も,私がお世話してあげた。
学校でガムを噛んでたって噂の男の子も,勉強を教えればそれなりに考えてくれるし計算用紙は黒くなった。
それ以来,人を見た目で判断するのはやめた。

女の子の問題も私が解決した。
愛ちゃんが私の悪口言ったんだ。
愛ちゃんが南ちゃんの悪口言ってたんだよ,サイテー。
南ちゃん泣いちゃって,可哀想だったんだよ。お願い,みんなで無視しようよ,亜紀ちゃんならわかってくれるよね?頭いいもん。
それらの言葉に価値がないのもわかっていたし,くだらないとも思っていたから,へーとだけ返事して逃げた。
次の日,愛ちゃんが一人で泣いていたから話しかけたら,「南ちゃんに悪口言われた」って言われた。
なるほど,これは無限ループのパターンだ。
愛ちゃんは,「南ちゃんとその友達にハブられてる」って泣いてたけど,私はそうは思わない。
この子は,距離を置くという言葉とその意図を知らないだけだ。それに気づいた瞬間,これまで同情してきた南ちゃんのいたずらは,全て誇張されたものだったのでは思い,本人に聞いてみたら,大当たり。
じゃあ私が愛ちゃんの機嫌とるから大丈夫だよ。南ちゃん,今度なんか言われたら私に言って。私がお説教してあげる。
愛ちゃんは,私を神様のように扱った。
誰かの神になるのは悪い気分ではなかったけど,私からしたら愛ちゃんは嘘つきのバカで,話は合わないしすぐに離れたかった。
でも,パパがその話を聞いて,亜紀は偉いねって褒めてくれたから,愛ちゃんとは死んでも縁を切らないと決めた。

あの子は,私が褒められるために利用するだけの道具だ。



冬が明け,クラスがかわり,夏が来る。
白いセーラー服は可愛いけど,隣の席の汐音の方が可愛い。
去年の担任と違い,今年の担任は大当たり。
山田さん,なんて気持ち悪い目をして呼びかける去年の担任の五億倍は優しく,いやらしさを感じない。
亜紀,と呼ばれて前を向くと,汐音がスマホを片手に見つめてきた。

「今年の夏休みさ,みんなで遊び行かない?」

「遊び?」

「鎌倉とか,東京とか,そこらへん。日帰り旅行。ど?私と藍と渚と亜紀の四人。」

「ぜんっぜんあり。ありすぎる,超行きたい」

「だよね,亜紀好きそうだもん。藍ーー渚ーー!集合」

全員が見事にロングヘア。ただ藍は元の髪色が茶色っぽくて,一人だけ浮いてみえる。

「なにーー」

「夏休みウチらで旅行行こうよ,鎌倉とか」

「え,神すぎん?渚絶対行きたい!」

渚は自分のことを渚と呼ぶ。
高校に入ってきて驚いたが,自分のことを名前で呼ぶ女子は多数存在する。人の目を気にしていないのか,ただ幼稚なだけなのか。渚を見ていると,それが後者のように感じてままならない。

「あたしバイトめっちゃつめる予定だから,先予定表おくっとくわ。汐音バイトいいの?」

「飛ぶに決まってんでしょ,セクハラ店長が気持ち悪いって話したじゃん」

「えーー渚もバイトしよっかなぁ,お金マジない」

「お前は彼氏がいるからいいよなぁ」

「そだよ,でもこの前サイゼリア割り勘した」

「うわ,女に財布出される男は生きてる価値ないのに」

汐音はサバサバしている。
黙ってれば可愛いのに,もったいない。

「で,亜紀は?」

「ウェルカムカモーン。藍が悲しむからね,私いないと」

うっさい,なんて肘で小突かれ,笑い声が大きくなる。
私たちを見るクラスのメガネをかけた女子や一言も話さない男子の目線に気づかないふりをした。

私は空気を読むくせがある。
黙ってると可愛くないから,喋ってないと好かれない。

「汐音鎌倉行くの?えーいいなー俺もつれてってー」

「絶対やだ。なんでお前みたいなの連れてかなきゃいけないんだよ」

汐音の前の席に座る男子たちの後ろで,自分の席が突然奪われて途方にくれる男子が見える。

可哀想に。

見て見ぬふりをする。

これはいじめではない。

見えなかっただけだ。
私は悪くない。

私はいつからこうなったんだろう。



自由研究のテーマは決めかねていた。
生活を便利にするもの,例えばリチウムイオン電池のような発明品。あるいは,サンショウウオのような絶滅危惧種の保護活動を通じての観察・実験。
そのどれもが魅力的だったけど,やっぱり誰かしらがやっていそうでつまらない。
私にしかできないことをしたい。
そうすれば,ママもパパも先生も愛ちゃんも汐音も藍も褒めてくれる。

ふと光を感じて目を移動させたら,ニュースが流れていた。

「高級アクセサリー店で強盗未遂を起こした犯人が逮捕されました。逮捕されたのは東京都に在住の無職,清水心容疑者(20)で,3日前の金曜日の夜9時に,東京都〇〇区の高級アクセサリー店に包丁を持って押し入り,『金庫の場所を教えろ』と店員に要求。店員が拒否したところ,持っていた包丁を振り回し怪我をさせた疑いがあります。店員は軽傷だということです。」

多数の警察官に囲まれて出てくる,金色の髪を持つ男。背丈は大きくないが,何よりその美しさに息を呑む。
黒い髪の毛が生えている頭頂をカメラに向け,車へと乗り込んだ。

これだ,と思った。

まさか自由研究で理科的な問題だけでなく社会的な問題まで見据えて仮定する人などいないだろう。

これだ。

これなら,私はきっと。

1番最初にノートに書いたのは,「犯罪者心理についての実験と一貫性」
消して次に書いたのが,「身の回りで起きる刑事事件とその対策」
また消して次に書いたのが,「理科と結びつける犯罪事件」
そして最後に書いたのが,「完全犯罪は成立するのか」

これ以降,その文字は消えていない。



2年C組40番 山田亜紀
『完全犯罪は成立するのか?』 
もくじ
・目的
・予想
・実験の手順
・実験の結果
・仮説
・反省

《目的》
私はある日テレビで流れてきたニュースに心を惹かれました。なぜなら,わずか20歳の人が犯罪を犯していたからです。事件は軽傷者一名で済みましたが,犯人は3日もの間凶器である包丁を持って逃亡していました。このとき,もしこのまま逃げ切っていたならばどうなのだろうと思いました。警察が捕まえられなかったら,その人は今もどこかで犯罪を犯していたのでしょうか。また,警察はどうやって犯人を見つけ出し,逮捕したのでしょうか。東京で起こった事件なのに,捕まった場所は愛知県だったからです。私は,完全犯罪という言葉を思い出しました。私は実際に存在する完全犯罪を1つも知りません。当たり前です。それを知っているのは犯人だけなのです。本当に1つも存在しないのかもしれないし,すぐ側に犯罪者がいるかもしれません。なので,私は自分を実験道具にして,完全犯罪は本当に成立するのか調べてみることにしました。私は日本には平和で治安のいい国でいてほしいです。だから,私の実験で今の日本の安全性を明らかにして,大切な人が暮らしやすい社会にしたいと思っています。

《予想》
完全犯罪は成立すると思います。なぜなら,小説などでよく見るトリックに読者はほぼ騙されているからです。同じ要領で警察を翻弄すれば,きっと私にはたどり着くことができないと思っています。また,私は噓をつく予定です。その噓を見抜けない限り,警察は私を捕まえることはできません。未成年なことも理由の1つです。

《実験の手順》
持ち物
・実験体
・包丁,ロープ,青酸カリ等の殺人道具
・手袋
・指紋を拭くためのタオル
・偽装工作用のハサミなど

手順
①どのように人を殺すか,どのようにすればバレないか案を出します
②その案を実行します
③警察が私のところへ来るのか来ないのか,私の犯行に気づく人がいるのかいないのかを,夏休みいっぱいを期限として集計し,まとめます
④実験で得たデータをもとに,完全犯罪の成立の判断や反省を行います



この実験で1番困ることは,誰を殺すかだと思う。
あのあとなんだかんだ考えて,殺人が1番インパクトがあって審査員の目もひかれるかな,と思った。

1つの前提に,私が捕まることだけはあってはならない。
実験が途中なのに捕まっては論文を書くことはできないだろうし,何よりパパとママと,汐音たちに申し訳ない。
そうだ,鎌倉に行くんだ。

最初のターゲットは,たまたま細い路地を一人で歩いていたお姉さんだった。
社畜のような焦点のない目で床を見つめていて,可哀想に見えた。そう考えたら,私はお姉さんの神様になるのだ。
そんなに死にたそうな目をしているんだから,私が殺してあげるよ。

「ごめんなさい,××三丁目ってどの辺りかわかりますか?」

恐ろしいくらい,落ち着いていた。

「でもそこ工場ばかりだよ,あなたみたいな人が用ないんじゃない?」

お姉さん,優しかったな。

「お兄ちゃんが働いているんです。それで,ワガママなお兄ちゃん雇ってくれて感謝してるので,差し入れを持っていこうと」

「あら,仲良いきょうだいなのね。こっちだよ,一緒に行く?」

「え,いいんですか!?ありがとうございます!」

よかった,差し入れなんて1つも持っていないから,証拠を見せろと言われたら終わってるところだった。

工場の煙が漂う。
さっきまで駅の路地裏だったのに,こんなところがあるなんて。

「ここらへんで1番大きい工場はもっと奥にあるけど,お兄さんどこで働いて――」

刃物越しに心臓に触れた感触がした。



「お昼のニュースです。…あ,速報です。今朝,東京都××区で女性の死体が発見されました。」

はやい。

思っていたよりはやい。

そりゃそっか,ただの死体じゃない。
他殺体だもの。

「女性は何者かに刃物で胸を刺されたものと見られています。警察は,スマートフォンや自宅の鍵,身分証明書を奪われていたことから,知人による犯行だと見て調べています。…続いてのニュースです。日経株価――」

思った通り。

殺人事件でよく見る,被害者から自分の痕跡を抜き取ろうとする犯人。
でもそれは逆効果で,例えばスマートフォンから自分の名前に繋がる情報がある場合,スマートフォンだけを奪うことは,スマートフォンに隠したい大事な情報があるということになる。つまり,少なくとも被害者となんらかの接点があったということの証明になってしまう。

今回は,なんの接点もないのだが。

今朝のことを思い出す。

運がよかった。

男の人は怖い。
女の何倍もの力で抵抗されたら絶対に敵わない。
だからって女ばかり狙っていたら,犯人は非力で男に敵わない同性の人間,つまり女の犯行,もしくはキモい男の仕業の二択になってしまう。次は男にしよう。

あそこの付近は立派な工場なのに監視カメラもなければ従業員もまだらである。しかし地元を愛する高齢社長とその息子,アルバイトをすべてクビになるような厄介者を採用するような場所でもある。もちろん路地裏には監視カメラはあると思うが,私は彼女とは別のルートで行ったので映っていないだろう。映っていたとて,東京に一人できたはいいけど道に迷っちゃった田舎の小娘に見えるはず。
こんな小娘に用などないだろう。


意外と軽かった。もっと,肉とか骨とかそういうの感じるかなとか,すぐ死なないかな,何回も刺した方がいいかなと思っていた。しかし,案外あっけないもんだ。パパのほうのおじいちゃんの葬式以来初めての死体だが,眠っているようだった。きっと,自分が殺されるなんて夢にも思っていなかっただろう。彼女はきっと,明日が必ずあると信じていた。

可哀想に。

自覚はある。

私は狂っている。

可哀想に。

自覚はある。

私は快楽を覚えてしまった。



《実験の結果》 
協力者(以下の情報はニュースより引用):佐藤芽衣(25),独身,一人暮らし,OL,週末は友達とビデオ通話をよく行っていた,幼少期は真面目で優しい子,大学時代はサークルのムードメーカー

殺害方法:刺殺

感想:眠ったように死んでいた。とても優しい人で,道に迷ったから案内してほしいと訪ねたら,向こうからたくさん話しかけてくれた。最初は,目の下のクマと垂れ目の印象から,働くのが嫌になった社畜かと思ったが,ちがうのかもしれない。友達と夜遅くまで電話していたからだったら,その友達には申し訳ない。ただもう死んでいて確かめるすべはないので,振り返らずに進んでいきたい。

工夫したところ:警察に知人による犯行だと印象づけるため,スマホや身分証明書を奪い去った。狙い通り通り魔だと気づいた様子はなく,安心している。



小学校でやる道徳の授業って,意味あったのかな。
私は少なくとも肯定できない。
自分らしく生きましょうという大人はいつも顔色を伺っていて,元の顔を忘れてしまった。
自分らしく生きましょうと教わったはずの子供も,いつしかおそろいに魅力を感じる。
人とちがうのは恥ずかしく,人と同じなのが当たり前。
みんな,逆張りしがちなのだ。
それならいっそ,人に合わせて生きましょうと教えたらどうだ。
そうしたら,みんな逆張りで個性を発揮すると思わないか。
でも,だからといって全て逆のことを教えてはならないことは確かだ。
危ないお兄さんにはついて行っちゃダメだよ。
この反対を教えたら,世の中は本格的に終わる。
教育とは,なんと無力で,影響力が高いのか。
現に,こうやって危ないお兄さん…お姉さんについてくる女の子はいるもんなのだから。

「こーすけもみなともすぅちゃんが好きなんだよーーしぃの方が先に好きになったのに!すぅちゃんひどい!」

「すぅちゃんって名前なんて言うの?」

「すみれだよ,全部ひらがななの。で,しぃは雫!下って漢字がついてるんだよ!で,こーすけとみなととはるりと…」

「はるり?」

「せせがわはるり。ちょーー難しい漢字書くの。でもはるりは頭いいから漢字テスト100点いつもとっててー」

キラキラネームの一種なのか。どういう漢字書くんだよ。
最近の小学生はませたガキとガキすぎるガキの二択になってきている。

「よし,じゃあそろそろこれあげるよ」

「やった~~~!!ママには絶対言わないから!!」

世の中にはロリコンという人がいる。
それを人と呼んでいいのかわからないほど,凶悪な事件を引き起こす人もいる。

本来ならば,そういう人の犯行に見せかけようと公衆トイレで待ち伏せしてもよかったのだが,それだとつまらない。なんていっても,私は誰にも成し遂げたことのないことをやらなきゃいけないのだから。

目の前の女の子…雫ちゃんだっけ?が,私からのプレゼントに貪りつくのが見える。

さっきの恋バナを思い返す。

もうじき君は死ぬんだから,両想いなんてなれっこないよ。喉まででてきたセリフを飲み込み,またねと言って去って行く。

ニュースになったのは3日後だった。

「東京都△区に住む8歳の小学二年生の女の子が,路上に倒れているのが見つかり病院に運ばれましたが,死亡が確認されました。司法解剖の結果,死因は青酸カリによる中毒死とみられており,警察は女の子が公園に遊びに行った帰り道で,何者かにより青酸カリを飲まされたとみて捜査しています。…えー…はい,はい。…えー,ただいま中継が繋がっているようです,田村さん」

「はい,こちら死亡した女の子が通っていた小学校の目の前です。学校は夏休み中ということもありガランと静かなのですが,普段なら校庭の遊具で遊ぶ子供の姿が見られるということです。しかし今日はそんな姿などまったく見られません。」

「警察の方の警備が厳しいようですが,どういう様子でしょう?」

「…はい,警察官が周辺の公園や発見現場付近に配置されており,ときにはパトカーがパトロールをしている様子も見れます。」

「…ありがとうございました。以上,中継でした。……続いて,中国で新たなAIを利用した――」

なるほど,小さな女の子の殺人事件には警察は総動員ということか。

あのお姉さんの事件はもうニュースで見なくなったけど,雫ちゃんのニュースは当分数週間はやるだろう。

可哀想なお姉さん。

それなら,もっとおもしろいことしておけば良かった。死体に傷を増やし,血文字でお絵かきをし,お姉さんの朝食までも奪えばよかった。

ふと,リモコンを持つ手に目がいく。

震えている。

体の震えが止まらない。

どうしよう,今この瞬間にも警察が私を調べていたら。
もし,私が犯人だって,バレてしまったら。

どうしよう,どうしよう,どうしよう,どうしよう,
どうしよう,どうしよう,楽しい,どうしよう。


協力者:加藤雫(8),〇〇小学校在学,二年五組,こーすけくんが初恋,みなとくんが好き。すみれちゃんのことが嫌い。以下母の声明文から引用
よく笑う可愛い子,かけっこが得意,紫色が好き,イチゴが好き,ママのご飯を美味しいと言いながら食べてくれる,よく公園に遊びに行く,来週は家族旅行に行くつもりだった。

殺害方法:毒殺

感想:自分のことをしぃと呼ぶ女の子だった。あまり可愛げはないけれど,たくさんの愛をもらって生きてきたんだと思った。毒入りクッキーを見せたらとても喜んでいて,目の前で食べてくれた。母が声明文を公表して犯人確保への協力を訴えているが,実際どうなのだろう。しぃちゃんはママが苦手らしい。お勉強しないと叩かれるらしい。毒がまわって薄れゆく景色の中,しぃちゃんは誰の名前を呼んだんだろう。

工夫したところ:毒の用意が大変だった。学校の理科準備室に忍ぶのは緊張したけど,先生からは夏休みも勉強をしていて偉いと褒められたので嬉しかった。ただ毒を飲ませるだけなので難しいところはないが,小学生の心を掴むのには苦労した。プリキュアの話が効果的。

ここまで書いたところで,亜紀ーーと一階から声がする。

一階までいけば,パパとママが揃っていた。

「なにー?」

「アンタまた塾サボったんだって?先生から電話きたわよ」

「ごめん,学校に忘れものとりに行ってたの」

「亜紀,鎌倉へはいつ行くの?」

「八月の27」

「ずいぶんギリギリに行くね」

「クラスのみんなにお土産買おって話になって,賞味期限とか考えてこーなった」

「駅までおくってこうか?」

「んー藍の最寄りまで行ける?そしたら藍と行く」

「なんで一回反対方向戻るのよ,藍ちゃんも車でおくっていくわ」

「愛ちゃんって家この近くじゃなかったっけ?」

「ちがうよパパ,それはラブの方の愛。藍色の方の藍の話ね」

「あ,そっか」

8/27,私の全てを捧げる。

この日はきっと歴史に残る大残虐殺人事件になるだろう。
観光客による毒物の混入など考えるだろうか。
いや,それがないから隙がうまれるんだ。

二階に戻って通話ボタンをタップする。

「やっほ」

「亜紀が珍しいじゃーん」

「いやー鎌倉はやく行きたくて声聞きたくなっちゃった」

「お前ら何イチャイチャしてんの」

「汐音ーこれはちがくてー」

「あれ,渚は?」

「アイツもう誘わなくてよくない?ノリ合わないし」

「えーでも渚いないとあたしのかっこいいところみせらんないじゃん」

自分より無能な友だちをわざと側において,自分の有能さを引き立たせる人間は数多くいる。

「ぷはっ,藍死ぬんだけど,マジウケる」

「渚ちゃん泣いちゃうよ~」

「亜紀のそれ渚の真似!?ウケる」

「渚ずいぶん顔かわったな」

「そういえばアイツとこの前コンビニで会っちゃったんだけど,彼氏と一緒だったの」

「うわ,コンビニで何買って何するつもりなんですか~~」

「しかもその彼氏,エグいよ。肩くらいまでの黒髪ロングで,よくわかんないパーカー着てた。絶対高校生じゃない」

「渚って援交してたっけ?」

「パパ活のつもりが本気になったんじゃない?」

「亜紀なんか知ってる?」

私は空気が読めて,暴言も吐ける。
パパとママが聞いたら,きっと泣いてしまうだろう。

「あの子前三年生の先輩の子供妊娠して休学してなかったっけ」

「あ,それ聞いたことある!」

「キモ。男に媚びうるのはいいけど私たちにまでぶりぶりすんのやめてくんないかな」

亜紀ウケるー,なんて汐音の笑い声が聞こえる。










当時の私は考えていなかった。

渚が,この物語に必要な理由。

渚の,罪と罰。

渚は,いつでもどこでもぷりぷりしている。胸焼けがするほどの可愛いを好み,一人でいることを嫌う。

年中しているツインテールも,やけに白い肌も,特徴的な声も,話し方も,仕草も,洋服も。

それが渚だと信じてやまなかった。
渚の好きなものだと思っていた。

ツインテールを解いた渚は渚じゃない。
本当の渚は,前者だというのに。
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