演技派女優に本気で恋をしてしまった社長の誤算
「……嫌だ」

子供のように我が儘な言葉しか出てこない。

俺は彼女の顔を胸に埋めさせるように、もう一度ぎゅっと強く抱きしめた。

ああ、まだ彼女を一人占めしていたい。

まだ、この甘い部屋の空気の中に閉じ込めておきたい。

「今日、休みだって言っただろ」

「うん……、そうだけど……」

「なら、まだ一緒にいろよ、俺と。急ぎの用事がないなら、今日一日、ずっとここに……」

必死に言葉を紡ぎながら、俺は自分の不甲斐なさに絶望しそうになっていた。

ああ、どうして。

どうして俺は、「もう一度、会いたい」と、ただその一言が言えないのだろう。

「次も会ってほしい」「俺の恋人になってほしい」「もう一度、君を抱きたい」

――ビジネスなら、次のアポイントメントを取るなんて、息をするよりも簡単にできる交渉だ。

なのに、恋愛という泥臭い感情の渦中に放り込まれた途端、俺は一気に臆病な素人に成り下がっていた。
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