恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
「兄ちゃん、知ってるのかよ?」

 陽向が驚いたように尋ねると朝陽は少し考えるように眉を寄せた。

「いや、直接会ったことはないんだけど……確か、先輩の知り合いがそんな名前だったような……」
「そうなの?」

 亜佑美も思わず聞き返す。

「亜佑美さんと初めて会った、あの日の合コン。本当は、その田仲さんも来る予定だったんです。だけど体調が悪くて参加出来なかったらしくて……」
「でも、参加してないならそいつは亜佑美サンのこと知らねぇんじゃねぇの?」

 陽向がもっともな疑問を口にすると朝陽は少し考えてから答えた。

「多分、先輩がみんなで撮った写真を見せたんじゃないかな。その後、俺が亜佑美さんと付き合ってることを先輩が知った時に、『俺の友達がめちゃくちゃ羨ましがってたぞ』って言われたんだよ……」
「……けど、兄ちゃんの先輩のダチなら兄ちゃんが出張に行ってるってことも分かるよな……」

 陽向の言葉に朝陽もハッとしたように顔を上げる。

「……確かに」
「もうそいつが犯人じゃん」

 陽向は半ば呆れたように言った後で話を続けた。

「っていうか、その先輩に話して止めてもらうように言えばよくね?」
「……そうだよな。それが一番いい方法だよな……」

 朝陽はそう呟いたものの、どこか歯切れが悪い。

 それを見た亜佑美が気遣うように尋ねた。

「でも、朝陽くん……先輩に聞きにくいよね?」
「それは……そうですけど」

 朝陽は一瞬言葉を濁した。

 自分の交際相手が先輩の友人らしき人物から執拗に付きまとわれている。

 そんな話を先輩本人に直接尋ねるのは確かに気が重かったけれど、いつまでも何もせずにいるわけにもいかない。

「……でも、いつまでもこのままじゃいけないですから。来週、会社で話してみます」
「そっか。ありがとう」

 亜佑美がほっとしたように微笑むと、陽向も安心したように頷いた。

「良かったな。これでその先輩から話してもらえりゃストーカー行為も止めるだろうし」
「うん……そうだね」

 これで、ようやく解決に向かうかもしれない。

 そう思う一方で、亜佑美の胸の奥ではどうしても引っかかるものが残っていた。

(何で、会ったこともないのにここまで執着してくるんだろう……)

 そしてその疑問だけが、いつまでも頭から離れなかった。
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