桜花転生奇譚
私の目の前には、太くて高い桜の木が1本立っていた。

「……桜?」

不自然なほどに大きな桜に、私は近づく。

『神桜に導かれし人の子よ』

どこかからか声が聞こえてきて、私は驚きながら辺りを見渡した……けど、誰もいない。恐怖が、私を襲う。

『驚かせてすまない。私は、この桜に宿る神・桜ノ命(さくらのみこと)と申す。単刀直入に言おう。お主は、死んだ。酒に酔うた者がアクセル全開で、お主の車に突っ込んだそうだ』

神様の言葉に、私は「嘘……」とその場に崩れ落ちた。私の頭に、家族や友だちの顔が浮かぶ。涙が、溢れる。

『お主の友も、もうすぐこちらに来る。そういう運命だ……さて、人の子よ。お主には、これから転生をしてもらう。私の見守る世界にな……お主の友……九条ひかりも、同じ世界に転生するだろう。お主とひかりが再び巡り会う時……お主の運命は、大きく動き出す。守ってくれ……私の大好きな世界・大江戸(おおえど)を。頼んだぞ。末良優月(すえよしゆづき)』

その言葉を最後に、私の目の前は再び真っ暗になった――。



ふと目を覚ます。目に入ったのは、木で出来た天井。

体を起こせば、畳の引かれた和室が視界に映った。壁には私が良く着る着物、部屋の隅には文机とすべてが和風でまとめられている。
< 3 / 11 >

この作品をシェア

pagetop