トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-
食事を終えて、私たちはどちらからともなくリビングのソファへと移動した
少しだけ空いた二人の距離
テレビのリモコンを押すと、パッと明るくなった画面から、賑やかな笑い声が流れ込んでくる
何気なく流れていたのは、芸能人のプロポーズ特番だった
画面の向こうでは、数え切れないほどの真っ赤なバラの花束が手渡されている
周到に用意されたフラッシュモブのサプライズ
驚きに手を覆う主役の涙
周囲を囲む人々からの、鳴り止まない拍手
そして、世界中で自分たちが一番幸せだと疑わない、眩しいほどの笑顔
私は膝の上でそっと手を組み、ぼんやりとそれを見つめていた
綺麗だな、と思った
女の子なら誰もが一度は憧れるような、素敵なシチュエーションだとも思った
でも、私にとってはまるでスクリーン越しに見る遠い異国の物語のようだった
「結婚」そんな甘やかで、確かな未来を示す言葉を考える余裕なんて、この数ヶ月の私たちには一秒たりともなかったから
明日どうなるかも分からない暗闇の中で、ただ必死に手をつなぎ、息を潜めて嵐が過ぎ去るのを待つだけで精一杯だったのだ
ふと、隣に意識を向ける
陽貴くんもまた、じっとテレビの画面を見つめていた
いつもならバラエティ番組を見て「すげえなこれ」なんて笑うはずの彼が、珍しく静かだった
横顔の輪郭が、テレビの光に照らされて微かに動く
何かを深く、深く考えているような横顔だった
そして、長い沈黙の後彼はぽつりと言った
「なあ」
「ん?」
私はテレビの画面から目を離さないまま、生返事をする
心臓が少しだけ、いつもと違うリズムを刻み始めたのを隠すように
すると、陽貴くんは真っ直ぐ前を見つめたまま、声を少し低くして言った
「俺たちも」
そこで少し、言葉を切る
まるで、自分の胸の奥にある覚悟の重さを確かめるように、静かに息を吸い込んだ
そして、張り詰めた空気の中に、確かな言葉を落とした
「絶対結婚しよう」
一瞬、鼓膜に届いた言葉の意味が脳に結びつかなかった
思考が、完全に停止する
さっきまでうるさいほどに響いていたテレビの音も
部屋の換気扇の音も
自分の呼吸の音さえも、すべてが急に遠ざかっていく
世界から音が消えたみたいだった
私はロボットのようなぎこちなさで、ゆっくりと陽貴くんの方を振り向いた
陽貴くんもまた、こちらを見ていた
冗談を言ってからかう時の悪戯っぽい瞳じゃない
その場しのぎの慰めでもない
ただひたすらに、真っ直ぐだった
吸い込まれそうなくらい、見たこともないほど真剣な目をしていた
「今すぐじゃなくていい」
陽貴くんが言葉を繋ぐ
その声は少しだけ震えているようにも聞こえた
「今はまだ、お互い忙しいし」
「あの騒動だって、やっと終わったばっかりだから」
「まずは落ち着かなきゃいけないし、お互いの仕事だってこれからが踏ん張りどころだし」
私は何も言えなかった
ただ、彼の言葉を一つも聞き漏らさないように、胸の奥に刻みつけることしかできなかった
「でも」
陽貴くんの口元が、少しだけ綻んだ
いつもの、私の大好きな、優しくて穏やかな笑顔
そして、私の目から溢れそうになっていた何かを全部包み込むように、もう一度言った
「俺は絶対に、紗凪と結婚するそれだけは決めてるから」
その瞬間、目頭が熱くなったかと思った時には、もう涙が溢れていた
本当に一瞬だった
止める暇も、堪える猶予もなかった
視界が急激に滲み、世界が歪む
大粒の涙が、熱い線となって頬を伝い落ちていく
自分でも驚くくらい、胸の奥の底の方から、感情が堰を切ったように溢れ出して、涙が止まらなかった
だってこの人は
ほんの少し前まで、自分の未来をすべて失いかけていたのだ
命をかけて積み上げてきた仕事も
幼い頃から追いかけてきた夢も
ファンからの信頼も、自分の居場所も
全部、本当に全部、一瞬で失ってしまうかもしれない、そんな崖っぷちにいた
先の見えない恐怖に、夜中に一人で押しつぶされそうになっていた彼を、私は知っている
そんな人が今、私の目の前で当たり前みたいに、数年後の未来の話をしている
これから先、何年、何十年と一緒に生きていく話を、こんなにも愛おしそうにしてくれている
それが、嬉しかった
生きていてよかったと心から思えるほど、嬉しすぎたのだ
ボロボロと涙を流す私を見て、陽貴くんが少し慌てたように顔を近づけてくる
「え、なんで泣くの!? 」
「ううん……違うの……っ」
私は激しく首を振る
言葉にしようとすると視界がさらに涙で遮られてしまう
でも、泣き顔のまま、私はちゃんと笑えていたはずだ
「嬉しくて……嬉しすぎて、涙が出ちゃうの」
やっとの思いでそれだけを絞り出すと、陽貴くんは心底安心したように、ふにゃりと目元を下げて笑った
そして、長い腕を伸ばして、私を自分の胸へと引き寄せる
何のためらいもない、自然な動作で
まるで、最初からそこが定位置だったと言わんばかりの、当たり前さで、私をきつく抱きしめてくれた
少しだけ空いた二人の距離
テレビのリモコンを押すと、パッと明るくなった画面から、賑やかな笑い声が流れ込んでくる
何気なく流れていたのは、芸能人のプロポーズ特番だった
画面の向こうでは、数え切れないほどの真っ赤なバラの花束が手渡されている
周到に用意されたフラッシュモブのサプライズ
驚きに手を覆う主役の涙
周囲を囲む人々からの、鳴り止まない拍手
そして、世界中で自分たちが一番幸せだと疑わない、眩しいほどの笑顔
私は膝の上でそっと手を組み、ぼんやりとそれを見つめていた
綺麗だな、と思った
女の子なら誰もが一度は憧れるような、素敵なシチュエーションだとも思った
でも、私にとってはまるでスクリーン越しに見る遠い異国の物語のようだった
「結婚」そんな甘やかで、確かな未来を示す言葉を考える余裕なんて、この数ヶ月の私たちには一秒たりともなかったから
明日どうなるかも分からない暗闇の中で、ただ必死に手をつなぎ、息を潜めて嵐が過ぎ去るのを待つだけで精一杯だったのだ
ふと、隣に意識を向ける
陽貴くんもまた、じっとテレビの画面を見つめていた
いつもならバラエティ番組を見て「すげえなこれ」なんて笑うはずの彼が、珍しく静かだった
横顔の輪郭が、テレビの光に照らされて微かに動く
何かを深く、深く考えているような横顔だった
そして、長い沈黙の後彼はぽつりと言った
「なあ」
「ん?」
私はテレビの画面から目を離さないまま、生返事をする
心臓が少しだけ、いつもと違うリズムを刻み始めたのを隠すように
すると、陽貴くんは真っ直ぐ前を見つめたまま、声を少し低くして言った
「俺たちも」
そこで少し、言葉を切る
まるで、自分の胸の奥にある覚悟の重さを確かめるように、静かに息を吸い込んだ
そして、張り詰めた空気の中に、確かな言葉を落とした
「絶対結婚しよう」
一瞬、鼓膜に届いた言葉の意味が脳に結びつかなかった
思考が、完全に停止する
さっきまでうるさいほどに響いていたテレビの音も
部屋の換気扇の音も
自分の呼吸の音さえも、すべてが急に遠ざかっていく
世界から音が消えたみたいだった
私はロボットのようなぎこちなさで、ゆっくりと陽貴くんの方を振り向いた
陽貴くんもまた、こちらを見ていた
冗談を言ってからかう時の悪戯っぽい瞳じゃない
その場しのぎの慰めでもない
ただひたすらに、真っ直ぐだった
吸い込まれそうなくらい、見たこともないほど真剣な目をしていた
「今すぐじゃなくていい」
陽貴くんが言葉を繋ぐ
その声は少しだけ震えているようにも聞こえた
「今はまだ、お互い忙しいし」
「あの騒動だって、やっと終わったばっかりだから」
「まずは落ち着かなきゃいけないし、お互いの仕事だってこれからが踏ん張りどころだし」
私は何も言えなかった
ただ、彼の言葉を一つも聞き漏らさないように、胸の奥に刻みつけることしかできなかった
「でも」
陽貴くんの口元が、少しだけ綻んだ
いつもの、私の大好きな、優しくて穏やかな笑顔
そして、私の目から溢れそうになっていた何かを全部包み込むように、もう一度言った
「俺は絶対に、紗凪と結婚するそれだけは決めてるから」
その瞬間、目頭が熱くなったかと思った時には、もう涙が溢れていた
本当に一瞬だった
止める暇も、堪える猶予もなかった
視界が急激に滲み、世界が歪む
大粒の涙が、熱い線となって頬を伝い落ちていく
自分でも驚くくらい、胸の奥の底の方から、感情が堰を切ったように溢れ出して、涙が止まらなかった
だってこの人は
ほんの少し前まで、自分の未来をすべて失いかけていたのだ
命をかけて積み上げてきた仕事も
幼い頃から追いかけてきた夢も
ファンからの信頼も、自分の居場所も
全部、本当に全部、一瞬で失ってしまうかもしれない、そんな崖っぷちにいた
先の見えない恐怖に、夜中に一人で押しつぶされそうになっていた彼を、私は知っている
そんな人が今、私の目の前で当たり前みたいに、数年後の未来の話をしている
これから先、何年、何十年と一緒に生きていく話を、こんなにも愛おしそうにしてくれている
それが、嬉しかった
生きていてよかったと心から思えるほど、嬉しすぎたのだ
ボロボロと涙を流す私を見て、陽貴くんが少し慌てたように顔を近づけてくる
「え、なんで泣くの!? 」
「ううん……違うの……っ」
私は激しく首を振る
言葉にしようとすると視界がさらに涙で遮られてしまう
でも、泣き顔のまま、私はちゃんと笑えていたはずだ
「嬉しくて……嬉しすぎて、涙が出ちゃうの」
やっとの思いでそれだけを絞り出すと、陽貴くんは心底安心したように、ふにゃりと目元を下げて笑った
そして、長い腕を伸ばして、私を自分の胸へと引き寄せる
何のためらいもない、自然な動作で
まるで、最初からそこが定位置だったと言わんばかりの、当たり前さで、私をきつく抱きしめてくれた