トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-
陽貴side
スタジオの片隅で、張り詰めた沈黙が破られたのは本当に唐突だった
収録の合間の短いブレイクタイム
一角に設置された液晶モニターからは、お決まりのトーンで医療ニュース番組の音声が淡々と流れている
普段なら気にも留めないその電子音をBGM代わりに、俺はただ手元の台本へ無感動に視線を落としていた
『――続いての報道です。本日午前、山間部の住宅において、二十代の男性が突発的な激しい胸痛を訴えて倒れ、意識不明の重体となる事態が発生いたしました。現場へは、ドクターヘリの医療チームが緊急出動し――』
そのアナウンサーの緊迫した声に、何の本心もなくふっと顔を上げた
画面に映し出されたのは、ドクターヘリが着陸準備を行っている現場の生々しい映像
何台もうごめく救急車
サイレンの光を鈍く反射させるパトカー
そして――山々を背に、激しくローターを回転させながら旋回する一機のドクターヘリ
その瞬間、俺の胸の奥がドクンと嫌な音を立てて波打った
ドクターヘリ
その単語が鼓膜をかすめただけで、脳裏には一人の愛おしい横顔が強制的に浮かび上がる
紗凪
確か、今日の彼女のシフトはフライト当番だったはずだ
気づけば、俺の視線は磁石に引き寄せられるようにテレビの画面へ釘付けになっていた
一刻を争う超緊急の病態であることが、画面越しにもその緊迫感から伝わってくる
カメラが目まぐるしく切り替わり、現地の医療チームが救急車からヘリへと患者を搬送する様子が映し出されていく
ストレッチャーが走り、緊迫した空気が画面を支配する
正式な病名はまだ明かされていない
けれど、アナウンサーの口から漏れた言葉に背筋が凍った
『――患者は急性大動脈解離、および心タンポナーデを併発しているとみられ、極めて危険なショック状態にある模様です』
心臓の病気。一分一秒の猶予すら命取りになる、恐ろしい疾患
そして、その次の瞬間だった
「あっ……」
押し殺したはずの声が、思考より先に唇から漏れていた
画面の端、ほんのわずかに見切れた、見慣れたブルーのフライトスーツ姿の女性
ヘルメットで顔の大半は隠れているし、一般の視聴者が見れば誰も気に留めないような、ほんの数秒の映像
けれど、俺が見間違えるはずなんて万に一つもあり得なかった
紗凪だ。間違いなく、俺の恋人だ
ドクドクと、心臓が痛いほどの質量を持って肋骨の裏を叩き始める
彼女はストレッチャーの横にぴったりとつき
救急隊員と言葉を交わしながら点滴やモニターのラインを鋭く確認し
すぐに弾かれたようにヘリの機内へと乗り込んでいく
そのプロフィールに浮かぶ表情は、冷徹なまでに真面目そのものだった
いつも俺の隣で、ふにゃりと柔らかく綻んでみせるあの愛らしい笑顔なんて、そこには微塵も存在しない
そこに立っていたのは、一分一秒を争う戦場で、誰かの命をあちら側から繋ぎ止めるために戦う一人のプロフェッショナルなフライトナースだった
テレビの中の紗凪は、一瞬の迷いもなく完璧な動線で手足を動かしている
救急隊へ向かって鋭いジェスチャーで指示を出し、ドクターへ臨機応変に状況を申し送り
バックから次々と緊急処置に必要な医療資器材を迷いなく準備していく
ニュースの映像自体は、ほんの十数秒程度の短いものだ
それでも、俺の胸を締め付けるには十分すぎるほどの熱量を持っていた
そこがどれだけ過酷で、一歩間違えれば命に関わるほど緊迫した最前線なのかが、嫌というほど生々しく伝ってくる
スタジオの片隅で、張り詰めた沈黙が破られたのは本当に唐突だった
収録の合間の短いブレイクタイム
一角に設置された液晶モニターからは、お決まりのトーンで医療ニュース番組の音声が淡々と流れている
普段なら気にも留めないその電子音をBGM代わりに、俺はただ手元の台本へ無感動に視線を落としていた
『――続いての報道です。本日午前、山間部の住宅において、二十代の男性が突発的な激しい胸痛を訴えて倒れ、意識不明の重体となる事態が発生いたしました。現場へは、ドクターヘリの医療チームが緊急出動し――』
そのアナウンサーの緊迫した声に、何の本心もなくふっと顔を上げた
画面に映し出されたのは、ドクターヘリが着陸準備を行っている現場の生々しい映像
何台もうごめく救急車
サイレンの光を鈍く反射させるパトカー
そして――山々を背に、激しくローターを回転させながら旋回する一機のドクターヘリ
その瞬間、俺の胸の奥がドクンと嫌な音を立てて波打った
ドクターヘリ
その単語が鼓膜をかすめただけで、脳裏には一人の愛おしい横顔が強制的に浮かび上がる
紗凪
確か、今日の彼女のシフトはフライト当番だったはずだ
気づけば、俺の視線は磁石に引き寄せられるようにテレビの画面へ釘付けになっていた
一刻を争う超緊急の病態であることが、画面越しにもその緊迫感から伝わってくる
カメラが目まぐるしく切り替わり、現地の医療チームが救急車からヘリへと患者を搬送する様子が映し出されていく
ストレッチャーが走り、緊迫した空気が画面を支配する
正式な病名はまだ明かされていない
けれど、アナウンサーの口から漏れた言葉に背筋が凍った
『――患者は急性大動脈解離、および心タンポナーデを併発しているとみられ、極めて危険なショック状態にある模様です』
心臓の病気。一分一秒の猶予すら命取りになる、恐ろしい疾患
そして、その次の瞬間だった
「あっ……」
押し殺したはずの声が、思考より先に唇から漏れていた
画面の端、ほんのわずかに見切れた、見慣れたブルーのフライトスーツ姿の女性
ヘルメットで顔の大半は隠れているし、一般の視聴者が見れば誰も気に留めないような、ほんの数秒の映像
けれど、俺が見間違えるはずなんて万に一つもあり得なかった
紗凪だ。間違いなく、俺の恋人だ
ドクドクと、心臓が痛いほどの質量を持って肋骨の裏を叩き始める
彼女はストレッチャーの横にぴったりとつき
救急隊員と言葉を交わしながら点滴やモニターのラインを鋭く確認し
すぐに弾かれたようにヘリの機内へと乗り込んでいく
そのプロフィールに浮かぶ表情は、冷徹なまでに真面目そのものだった
いつも俺の隣で、ふにゃりと柔らかく綻んでみせるあの愛らしい笑顔なんて、そこには微塵も存在しない
そこに立っていたのは、一分一秒を争う戦場で、誰かの命をあちら側から繋ぎ止めるために戦う一人のプロフェッショナルなフライトナースだった
テレビの中の紗凪は、一瞬の迷いもなく完璧な動線で手足を動かしている
救急隊へ向かって鋭いジェスチャーで指示を出し、ドクターへ臨機応変に状況を申し送り
バックから次々と緊急処置に必要な医療資器材を迷いなく準備していく
ニュースの映像自体は、ほんの十数秒程度の短いものだ
それでも、俺の胸を締め付けるには十分すぎるほどの熱量を持っていた
そこがどれだけ過酷で、一歩間違えれば命に関わるほど緊迫した最前線なのかが、嫌というほど生々しく伝ってくる