お酒のせいにできない
 一際大きな笑いが巻き起こる。結菜も合わせて控えめに笑いながらも、頭の中では遼のことを考えていた。誰が釣ったのかは結菜には知れないが、遼はこの場に来るようだ。

 大量のアルコールを摂取したわけでもないのに、妙に身体が火照っていた。そわそわと落ち着かなくなる。チューハイを飲んで、繰り返し飲んで、逸る鼓動を誤魔化した。

 良くない飲み方をし始めてから数分後、居酒屋の扉が開いて誰かが入ってきた。出入り口に顔を向ける。周りの声量が、わっと大きくなる。

「おー、来たか福原。はよ座れ座れ」

「お酒飲めるよね? 何飲む? 注文するよ」

「じゃあ俺のもついでに注文して。同じの」

「同じのってさっき何頼んだ?」

「福原、お前誰に釣られたんだよ」

 陽気な声があちこちから飛び交い、あっという間に大歓迎ムードに包まれる。結菜はギュッと唇を閉じ、視線を下げた。訪れた遼の手元を瞳に映す。自然に曲げられた指。長く、細く、骨張った美しい指。芸術品のような指。

 鼓動が高鳴った。ごくりと唾を飲んだ。上がった熱を下げようと、逆効果だというのにジョッキを傾けてしまった。体内を巡るアルコールが、徐々に蓄積されていく。

「俺、車で来たから飲めないよ」

「……はあ? おま、なんで車で来たんだよ」

「通りで来るの早いと思ったわ」

「外暗いし、歩いて行くのも面倒だったから」

「なんでよ、一緒に飲めると思ったのにさ」
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