夜の風景

「落ち葉の約束」

第4話 – 8ページ目:まだ伝えられなかった真実

同じ夜 – ホテルの控え室、数分後

客たちが、再び大広間へと戻り始めていた。
音楽が再び音量を上げ、シャンデリアの光が、フォーマルな装いの上で輝いている。

しかし、イロはまだ、廊下に立っていた。

彼の視線は、ミヤが去っていったあのドアに注がれていた――
まるで、彼女がまだ戻ってくることを期待しているかのように。

背後から、コバタの声がした。

「副社長。」

イロは、ゆっくりと振り返った。

コバタが数歩近づき、心配そうに尋ねた。

「追いかけなくていいんですか?」

イロは、苦い笑みを浮かべた。

「行きたいよ。」

彼は、一瞬沈黙した。

それから、静かに続けた。

「でも…今ここを離れられない。」

彼の視線は、大広間へと向かう――そこには、何十人もの重役や投資家たちが、式典の開始を待っていた。

「今日の主役は…俺だから。」

---

コバタは、しばらく黙っていた。

それから、慎重に尋ねた。

「あの子が…ミヤさんですか?」

イロは、うなずいた。

「うん。」

「誤解しましたね。」

イロは、そっと目を閉じた。

「全部、俺のせいだ。」


その時――

サクラが、廊下の向こうから歩み寄ってきた。

今度は、その顔に笑みはなかった。

彼女は、しばらくイロを見つめてから、言った。

「追いかけなかったの?」

イロは、彼女を見ずに答えた。

「追いかけたかった。」

サクラは、ため息をついた。

「さっき、腕をつかんだのは悪かった。」

彼女は、一呼吸置いた。

「でも、会長に呼ばれてたでしょう。」

イロは、何も言わなかった。

サクラは、悔しそうに続けた。

「あの子には、私が説明する。」

イロは、今度は顔を上げた。

「いや。」

その声は、静かだが、確かな意志を帯びていた。

「自分で話す。」


サクラは、一瞬だけ彼を見つめ、かすかに笑った。

「そう。」

それだけを残して、彼女は人混みの中へと消えていった。


イロは、手をコートのポケットへと伸ばした。

あの、乾いた桜の花びら。

数ヶ月前、ミヤが隅田公園で彼に贈ったもの――
彼は今も、それを小さなノートのページの間に挟んでいた。

彼は、しばらくそれを見つめた。

そして、そっと呟いた。

「ミヤ……信じてくれ。」

しかし、彼自身もよくわかっていた――
たった一瞬の誤解が、
何ヶ月分もの信頼を、一瞬で壊してしまうことがあるのだということを。

---

同じ夜…

ミヤは、車の窓から、街の灯りを見つめていた。

彼女は知らなかった――
イロが、今もあの小さな花びらを大切に持ち歩いていることを。
そして、彼がまだ――
自分の約束を、決して忘れていないということを。


続く…
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