夜の風景

初雪の別れ

第四章 – 第十二ページ:雪の下の別れ


お台場 – 午後6時


空は灰色だった。


ミアは海辺に立ち、青いマフラーを首に巻いていた。

海から冷たい風が吹き、彼女の髪を静かに揺らしている。


ミアは、遠くの水平線を見つめていた。


数分後――


背後から、足音が聞こえてきた。


アイロだった。


冬用のコートを着て、両手をポケットに入れている。


アイロ:


「みや……こんばんは。」


ミアはゆっくり振り返った。


そして、しばらく何も言わずに彼を見つめた。


ミア:


「来たんだ。」


アイロは、かすかに笑った。


アイロ:


「うん。来た。」


二人の間に、静寂が落ちた。


冷たい風が、二人の間を通り抜けていく。


ミアは再び海へ視線を戻した。


そして、静かに口を開いた。


ミア:


「……あの夜。」


アイロは、その場で動きを止めた。


ミアは続けた。


「あの夜……すべてが変わった。」


アイロが、少しだけ彼女に近づく。


アイロ:


「みや、それは……君が思っているようなことじゃ――」


ミアは彼の言葉を遮った。


ミア:


「アイロ、もう説明しなくていい。」


少し間を置いて、続けた。


「あの夜、私は全部見た。」


アイロは何も言わなかった。


ミアは深く息を吸った。


「だから……もう終わりにしたほうがいいと思う。」


アイロの顔から、血の気が引いた。


アイロ:


「……何を?」


ミアは、まっすぐ彼の目を見つめた。


ミア:


「この関係を。」


アイロは凍りついた。


数秒間、言葉さえ出てこなかった。


ミアは一歩、彼に近づいた。


そして、ゆっくりと手を上げ、首に巻いていた青いマフラーを外した。


それを、アイロへ差し出す。


アイロは信じられないような目で、マフラーを見つめた。


アイロ:


「いや……みや、待って。」


ミアは静かに言った。


ミア:


「受け取って、アイロ。」


アイロは、わずかに震える手でマフラーを受け取った。


ミアは、しばらく彼を見つめていた。


ミア:


「今まで……ありがとう、アイロ。」


沈黙。


そして、ミアはとても静かに言った。


「さようなら。」


その瞬間――


空から、最初の雪が舞い落ちてきた。


一片。


そして、もう一片。


やがて雪は、静かにその数を増していった。


ミアは背を向け、歩き始めた。


アイロは突然、手を伸ばした。


ミアの手をつかもうとした。


けれど、ミアはその瞬間、そっと手を口元に当て、白い息を吐いた。


冷たい空気の中に、白い吐息がふわりと浮かぶ。


ミアは振り返らず、静かにつぶやいた。


「庭の誇りに咲いた花を……自ら散らしてしまった。」


アイロは、その場に立ち尽くしていた。


青いマフラーは、まだ彼の手の中にあった。


その目は、遠ざかっていくミアから離れない。


そして初めて――


アイロには、何も答えることができなかった。


雪が、彼の肩に静かに積もっていく。


それでもアイロは、動かなかった。


ただ一つの言葉だけが、頭の中で何度も繰り返されていた。


「みや……」


つづく……
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