箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
 そして――その部屋の中央だけが、異質なほど強固な、分厚い強化ガラスによって四方を厳重に仕切られていた。
 まるで貴重な標本を展示するケースのような。
 あるいは、獰猛な実験動物を観察し、閉じ込めるための檻のような。
 外部の空気を一切遮断した、冷たく閉ざされた透明な空間。
 新那の視線は、磁石のようにそのガラスの奥へと吸い寄せられた。

「……っ!」

 喉の奥で息が詰まる。
 そこには。
 一人の少年が、冷たい床の上にぽつんと静かに座り込んでいた。
 見慣れない、真っ白の服で。
 力なく俯き、伸びた黒い前髪がその表情を暗く隠している。
 そして何より新那の目を恐怖で射抜いたのは、彼の両手首にはめられた、鈍い光を放つ銀色の重厚な拘束具だった。そこから伸びた太い金属の鎖が床のアンカーへと堅固に繋がれ、彼の自由を、その尊厳ごと完全に奪っていた。
 まるで、取り返しのつかない大罪を犯した罪人のように。
 あるいは、いつ暴発するか分からない危険な兵器のように。
 彼はただそこへ、感情を持たないモノとして繋がれていた。

「……零」

 震える声が、新那の唇から零れ落ちる。
 その声に反応するように、ガラスの向こうの少年はぴくりと細い肩を震わせた。
 そして、ひどくゆっくりと、錆びついた機械が動くような頼りなさで顔を上げた。
 前髪の隙間から覗く、あの深い瞳が、真っ直ぐに新那の姿を映し出す。
 一瞬だけ。本当に一瞬だけ、彼は信じられない奇跡でも見たかのように、その両目を大きく見開いた。

「……お嬢?」

 掠れた、今にも空気の中に溶けて消えてしまいそうなほど、弱々しい声だった。スピーカーを介して聞こえるその声には、いつもの凛とした張りが一切ない。
 新那はその姿を見た瞬間、胸の奥を素手で握り潰されたような激しい痛みに襲われた。
 昨日まで。ほんの数十時間前まで、彼は同じ教室の隣の席にいて、文化祭の劇の練習でぎこちなく笑っていたはずだ。家でくだらないテレビを見ながら、眉を下げて笑っていた。
 その、愛おしい零が。
 今は光の届かない冷たいガラスの向こうで、獣のように鎖に繋がれている。

「なんで……っ」

 大粒の涙が堰を切ったように溢れ、頬を伝って床へ落ちる。

「なんで、こんなこと……!  零っ!」

 新那は遮るガラスへと一心不乱に駆け寄り、その冷徹な透明の壁に両手を強く押し当てた。
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