箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
 ネジの切れた人形のように、上半身がガクンと前へ傾く。
 ――倒れる。そう直感した。

「っ!」

 新那が息を呑み、声を上げようとした瞬間。
 視界が、爆発した。

 ガタンッ!

 隣のパイプ椅子が狂ったような音を立てて跳ね上がる。
 驚いて視線を向けた時には、すでに右隣の席は空っぽだった。
 速い、なんて生温い言葉では表現できなかった。走ったようにも、跳んだようにも見えなかった。
 新那の網膜が捉えたのは、アールの残像すら残さないネイビーのブレザーの「ブレ」だけだ。
 気づいた時には、アールはすでに三列先、倒れゆく女子生徒の真横へと「ワープ」するように出現していた。
 女子生徒の頭部が、硬い体育館の床へと激突する、まさにその数センチ手前。
 アールは膝を滑らせるようにして滑り込み、重力に裏切られた彼女の身体を、その長い両腕でふわりと受け止めていた。

「え……っ?」
「え、何……!?  今の……」

 周囲の席から、地鳴り(さざなみ)のような驚きと困惑の声が漏れる。あまりの神速の出来事に、誰も何が起きたのか理解できていない。
 アールの腕の中に収まった女子生徒は、完全に意識を失ってぐったりとしていた。けれど、アールの鉄壁のホールドによって、彼女の身体には擦り傷一つ付いていない。

「おい、大丈夫か!? 何があった!」

 大きな異音に気づいた近くの学年主任らしき男性教師が、慌ててドタドタと駆け寄ってくる。
 アールは、意識を失った女子生徒を抱き抱えたまま、驚くほど冷静に、淡々と教師を見上げて告げた。

「対象の意識レベル低下を確認しました。瞳孔異、異常なし。自発呼吸あり。脈拍は毎分八十二、正常範囲内。外気温と衣服の密閉度、および生体パラメータの急変動から推測するに、一時的な脳貧血である可能性が高いと判断します」

 その、あまりにも専門的かつ淀みのない医療報告に、駆け寄った教師が完全に一瞬固まった。

「そ、そうか……!  迅速な処置、感謝する!」
「これ以上の滞留は悪化を招く恐れがあります。保健室への緊急搬送、および衣服の弛緩を推奨します」
「わ、わかった!  私が運ぶ!」

 教師が慌てて女子生徒を引き受ける。
 保健室の担当教諭や数人の大人が付き添い、彼女を抱えて足早に体育館を後にしていった。
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