箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
❦無感情ボディーガード
 


 大きな姿見の前で、少女はクルクルと回って自らの格好を満面の笑みで見つめている。
 白いシャツ、ベージュのカーディガン、ネイビーのブレザー、赤いリボン、赤いチェック柄のスカート、黒のハイソックス。
 都内の公立高校の指定制服だ。

「かっわいーーーー!」

 流石は全国制服ランキングで上位に入る学校なだけある。漫画の世界で見るような、地味すぎないお洒落なデザインだ。
 何度もスカートの裾を摘んで広げたり、くるりと回って背中を見たりする。
 首から下は完璧な装いだ。問題は……。

「髪型、どうしようかなぁ」

 どれだけ制服が可愛かろうと、これから通う高校は校則が厳しい。
 当然メイクなど許されるはずがなく、スカートを膝上まで折ることも禁止。事前に調べた評判では、「どれだけ制限された条件下で己を可愛く見せるか」が肝になるそうだ。
 ただ、髪型は自由らしい。体育の時間に長ければ結ぶくらいで、基本はどんな髪型も許される。
 派手な髪色は当然禁止だが、少女の髪は腰まであるロングヘア。陽に当たると少し茶色っぽく透ける程度で、完全な地毛だ。これならきっと、先生たちに目を付けられることもないだろう。

新那(にいな)、着替え終わったかい?」

 コンコン、と小気味よい音が部屋に響き、その後に優しい男の人の声が続く。
 
「はーい! パパ、入っていいよ!」

 姿見に背を向けながら高らかに応じると、ゆっくりと部屋の扉が開かれて父親が入ってきた。
 穏やかな笑みを浮かべていた父親だったが、新那の姿を見るなりピタリと言葉を失う。
 高級スーツに身を包み、数多の部下を率いる企業経営者としての顔はそこにはない。
 ただ一人の父親として、目の前の眩しい娘を、ただ圧倒されて見つめていた。

「どうかな?」

 オルゴールの上にいるつもりでくるりと回ってみせると、スカートがふわりと揺れた。

「似合う?」
「……」
「パパ?」
「写真を撮ってもいいか?」
「早いよ!」

 父親の溺愛ぶりに新那は思わず吹き出した。
 入学式は明日なのだ。
 それなのに父は既に、真剣な眼差しでスマートフォンを構えている。

「いや、しかしだね。新那が制服を着る日が来るなんて……」
「普通に来るでしょ」
「来ないかもしれなかった」
「なんで!?」
「ずっと家にいてくれてもよかったんだぞ?」
「嫌だよ!」

 新那が即答すると、父親は目に見えてガックリと肩を落とした。
 小学校の時に父親の事業が成功して以来、新那はずっと家で家庭教師から勉強を教わっていた。つまり、中学校で学ぶ知識は持っていながらも、「学校」という場所には一度も通ったことがないのだ。

「それでね、ポニーテールにするか下ろすか迷ってるの」
「下ろした方が可愛い」
「即答だね」
「絶対に下ろした方が可愛い」
「参考にならないなぁ……」

 父の評価はいつだって満点だ。
 寝癖だらけで起きてきた最悪な朝ですら、

『今日も可愛いね、新那』

 と大真面目に言う人間の意見など、到底信用できるはずがなかった。
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