箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
 ――キーンコーンカーンコーン……。
 一日の終わりを告げる終礼のチャイムが、夕方の校舎に心地良く鳴り響いた。
 教卓の前で担任の後藤先生が「よし、今日の連絡事項は以上だ」と締め括ると、それまでピンと張り詰めていた教室の空気は、インクが水に滲むように一気に緩んでいく。

「じゃあお前ら、寄り道しないで気を付けて帰れよー」

 先生がガラガラと扉を閉めて出ていく。
 その瞬間を待っていたとばかりに、教室内は一気に騒がしくなった。
 椅子を引くガタガタという音。
 通路を挟んで弾ける友達を呼ぶ声。
 早くもジャージに着替えて部活へとダッシュしていく生徒達の騒がしい足音。
 一日の終わりを祝福するような、高校生特有の賑やかさが教室の隅々までを満たしていった。

(今日も無事に終わったっと……)

 新那も小さく肩の力を抜き、机の上の教科書やノートを鞄へとしまい始める。
 振り返ってみれば、今日も本当に色々なことがあった。
 午前中の眠気と戦った授業。
 お昼休みに莉子と笑い転げたランチタイム。
 そして、体育の授業でアールが引き起こした、ちょっとした「モテ騒動」と、自分の胸の奥に生まれた正体不明のもやもや。
 家の中で家庭教師と一対一で過ごしていた頃に比べたら、信じられないほど忙しくて、目まぐるしい。
 けれど、不思議と嫌ではなかった。むしろ、この騒がしさを「少し楽しい」とすら思い始めている自分に、新那は驚いていた。
 そんな、ちょっとした心の変化に浸っていた、まさにその時だった。

「あーーーっっっ!!」

 窓際の席から、莉子の悲鳴のような大声が教室に響き渡った。

「雨だ!  皆見て、雨が降ってきたー!」

 その言葉に釣られるようにして、何人かの生徒達がワラワラと窓辺へと集まっていく。新那も手を止め、つられて顔を上げた。
 大きなガラス窓の向こう。
 つい数時間前、体育の授業中にはあんなに眩しく輝いていた青空は何処へやら、いつの間にか空全体が重々しい灰色の雨雲に覆い尽くされていた。
 そして、細かな、けれど密度の高い雨粒が、乾いた校庭の土へと容赦なく降り注いでいる。

「本当だ……。結構降ってるね」

 ついさっきまで晴れていたのに。春の天気は本当に移り気で分からない。
 莉子は窓ガラスに額をぴったりとくっつけ、外の様子を覗き込みながら言った。

「これ、ただの通り雨じゃないよ。結構ガッツリ降ってる。新那ちゃん、傘持ってきた?」
「うわ……」

 新那はカチリとフリーズし、思わず声を漏らした。
 そして、数秒の後。

「あ……」

 自分の鞄の中身を脳内で検索し、完全に固まった。

「どうしたの?  新那ちゃん」

 莉子が不思議そうに振り返る。新那は絶望的な表情のまま、ゆっくりと答えた。

「傘……ない。持ってきてないよ……」
「えっ、嘘、本当に!?」
「だって、朝はあんなに快晴だったし、お父さんも何も言ってなかったし……」

 完全に油断していた。まさか、こんなベタなトラブルに見舞われるなんて。
 莉子も自分のことのように少し困った顔をして、顎に手を当てた。

「うーん、どうする?  近くのコンビニでビニール傘でも買って帰る?」
「そうだね、そうするしか……」

 家までは歩いてそこそこの距離がある。走って帰れないこともないが、この雨脚では家に辿り着く頃には確実にシャワーを浴びた後のようになってしまうだろう。
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