暴露大会のその後は

ね、いずみん♡

「つまり……」

寺田先輩は屋上の錆びれたベンチに腰をかけ、長い足を組んだ。柔軟剤の甘い香りが風に乗り、金色の髪がなびいていた。
その美しい横顔は、息を呑むほどに見とれてしまうものだった。寺田先輩のことはよく知らないけれど、この雰囲気からして穏やかで優しい人なんだと言わずとも分かった。

「好きな人に振られたから、くっだらない嘘をついたってことだね!」

前言撤回である。

必死に事情を話した後、爽やかな笑顔で頷いてくれたと思いきや、猛毒を吐いたこの先輩。もしかしたら、とんでもないことを引き起こしてしまったのかもしれない。てか、まだ振られてないし……

「わ、悪気はないんです。男友達もいるわけでもないし、パっと思い浮かんだのが有名人の寺田先輩ってだけで……」

情けなく命乞いをするように、早口で言い訳を並べた。
早く寺田先輩から許しを得て、事を済ませたい一心だった。

「その、本当に申し訳ございませんでした!!!」

人生で一番と言っては過言ではないほど、深くお辞儀をした。寺田先輩は少しだけ沈黙をした後、クスっと噴き出すように笑った。
ゆっくり顔を上げると、大きく声を上げて笑いお腹を抱えていた。

「僕は、自己防衛の嘘は悪いことじゃないと思うよ。ただ、君は下手すぎる」

あ、内容にもよるけどね~!と付け加え、足を組み直した。予想外の反応に、私はポカンと口を開けていた。

「で、でもこれで変な噂とか流れてしまったら…」

そうだ……湊は割とクラスの中心人物だし友達も多い。彼が言いふらしてしまえば噂なんて光速さで広まる。そうとなれば、今は迷惑と思っていなかったとしても、これからが問題なのだ。

「いや、キスくらい普通でしょ」
「……は?」
「この前だって、一年生の子に付き合えなくてもいいので一回だけキスしてくださいってお願いされてキスしたし」

あ、やっぱこいつヤバいやつだ。
白い目で寺田先輩を見つめ、私と先輩の間にやけに冷たい風が吹き通った。

「別に、君がついた嘘を今事実に変えることもできるよ」

本日2回目の命の危機を感じ、咄嗟に距離をとった。
楽しそうにニヤニヤと笑い、私をからかっているのはあからさまだった。

「結構です!嘘だってことちゃんと謝りに行きますので」

この人と深く関わってしまったらまずいことになる。先輩にはしっかり謝ったし、事情も説明した。あとは、湊に嘘をついてしまったこと謝るだけだ。

「お騒がせしました!」

またお辞儀をして、出口へ向かう。寺田先輩は、ひらひらと手を振って、ものおかしそうに私を見つめていた。

___________



あっという間に昼は過ぎ、気づけば掃除の時間になっていた。
あれから、湊に声をかけるタイミングは見つからないし、湊も気を遣っているのか知らないが、声を掛けてくることはなかった。

2つものゴミ袋を抱えて、校舎裏のゴミステーションへと向かった。今日に限ってゴミはパンパンだし、校舎裏までは少し距離があった。ゴミ袋の先端が廊下にこすれ、引きずるように運んでいると、片方だけ一気に軽くなる感覚がした。

「一人で無理すんなよ、バカ」

湊にゴミ袋を取り上げられて、私の隣を歩き出した。あぁ、やっぱり好きだなって胸が痛くなった。無言のまま廊下を歩き続け、あっという間に校舎裏へと着いてしまった。人気が少ない今がチャンスだった。ゴミ袋を置き、私は勇気を出して声を振り絞った。

「あのさ湊」

私の声に湊は肩を震わせ、同時にこちらに振り返った。
少し歯がゆそうに目を逸らして、なに……と小さな声で返事をする。

「あのね、昨日の話なんだけど………実はっ」

そう声を張り上げた時、腕を後ろに引かれ、甘い香りに包まれた。
なにが起きているのか理解もできず、目の前にいる湊は目を大きく見開き、私の後ろを見つめていた。


肩を掴まれ後ろを振り返ると、そこには___寺田先輩がいた。
どうしてここにいるんですか。なんて聞く余地もなく、寺田先輩の大きな手が私の顔を包み込んだ。そして、

そっと唇を落とされた。

唇が触れた瞬間、頭の中が真っ白になり、何が起きたのか、理解するまで数秒かかった。


「あー、ここにいたんだね」

寺田先輩は、満足そうに口角を上げて湊を見つめる。

「いーずみん♡」









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