似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
翌日。美空は完全な寝不足状態で受付に立っていた。
(あんなの、眠れないよ)
寝起きの顔はひどく、受付に相応しくないほどには目が腫れていた。
だから美空はいつもより念入りに化粧をして仕事をしていた。
(今日は洋介もいるし、ミスの無いよう特に注意しなきゃ)
洋介が異動願いを妨害していると白状して以降、嫌がらせはますますヒートアップしていた。
些細なことで美空を皆の前で怒鳴り散らしてくるようになったのだ。
特に、今日のように受付が美空だけの時は要注意だった。
(でも今日は午前勤務だけ……帰ったらお昼寝できる。大丈夫。あと少し頑張ろう!)
ところがもうすぐ美空の勤務時間が終わろうという頃、受付に大声が響いた。
「おい! 受付前に埃が落ちてるぞ。ちゃんと掃除したのか?」
(うわ、やっぱり来た……)
洋介がずんずんと受付前まで来ると、目視ではほとんど確認できないような小さな埃を指差した。
お客様が何人いるというのに、洋介は大声でお構いなしだ。
「全く……どうなってるんだ!」
「申し訳ありません」
美空は小さく謝罪すると、布巾でそれさっと拭き取る。
けれど洋介はまだ満足しないようだった。
「受付ってのはお客様が最初に来る場所なんだ! お前のせいでジム全体が不潔に思われるだろうが!」
「一体どんな神経してたらこんな不真面目に仕事が出来るんだ!」
美空がひたすらに頭を下げていると、人影が近づいてきた。
「あの、先程から貴方のお説教がすごく耳障りなんですけど。ここのジムでは客を放置して従業員に説教するのが普通なんでしょうか?」
よく聞きなれた低い声。
そっと顔をあげると、そこには優斗が険しい顔で立っていた。
洋介は一瞬「しまった」という顔をしたが、すぐに怒りを露にした。
「お前っ……いつも俺の邪魔をしやがって! お前だろ、美空を誑かしておかしくした奴は!」
「なんの事でしょう? 僕は今、受付で大声を出している貴方の話をしているんです。少しは周りを見たらどうですか?」
優斗が冷静な口調で周囲を指し示すと、少し離れた位置に座っていた男性客たちが立ち上がった。
「そこの兄ちゃんの言う通りだな。あんた、ちょっと煩すぎる」
「毎日のように怒鳴り声を聞かされたんじゃあ、やる気も失せるって」
「受付の姉ちゃんはそんなに悪いことしてないだろ。いつも笑顔で対応してくれてる」
皆が口々に言うと、洋介は口を閉じて拳を握りしめた。
「くそっ……調子乗るなよ」
洋介は優斗に吐き捨てると、早足でスタッフルームの方に去っていった。
「姉ちゃん、気にすることないよ」
「そうだ。あんな野郎放っておきな」
「いつもありがとうな」
声をかけてくれた客たちは皆、美空に優しく声をかけてトレーニングルームの方へ向かっていく。
美空が「ありがとうございました!」とお辞儀をすると、皆恥ずかしそうに笑みを浮かべて手を振ってくれた。
皆が去っていって静かになった受付で呆然としていると、優斗の手が肩に触れた。
「大丈夫?」
「……どうしてここに?」
「話す時間が取りたくて。少しでも声が聞きたかった。すまない、職場まで来る旦那なんて鬱陶しいと分かっていたんだが……」
「そんなことないですっ!」
優斗の悲しそうな表情に、美空の声が思わず大きくなる。
「私もっ、会いたかったです……」
言いながらだんだんと恥ずかしくなって、声も小さくなっていく。
けれど優斗は嬉しそうに微笑んだ。
「良かった、もう話せないのかもって不安だったんだ。美空はもうすぐ仕事終わりだろう? 今日は当直明けで休みをもらえたから、美空の仕事終わりまで待ってるよ」
「え、で、でも……」
戸惑っていると、優斗はトレーニングルームとシャワーの利用券を差し出した。
「はい、これ」
「あっ、はい。で、ではこちらのリストバンドをどうぞ……」
「ありがとう、また後で」
優斗はリストバンドを受け取ると、颯爽とトレーニングルームの方へ消えていった。
(優斗さんが来てくれた……。あ、会いたいって言ってくれた)
洋介が助けてくれたことも嬉しかったが、それが一番嬉しい。
美空の心臓は高鳴り、眠気はすっかり飛んでいってしまった。
(あんなの、眠れないよ)
寝起きの顔はひどく、受付に相応しくないほどには目が腫れていた。
だから美空はいつもより念入りに化粧をして仕事をしていた。
(今日は洋介もいるし、ミスの無いよう特に注意しなきゃ)
洋介が異動願いを妨害していると白状して以降、嫌がらせはますますヒートアップしていた。
些細なことで美空を皆の前で怒鳴り散らしてくるようになったのだ。
特に、今日のように受付が美空だけの時は要注意だった。
(でも今日は午前勤務だけ……帰ったらお昼寝できる。大丈夫。あと少し頑張ろう!)
ところがもうすぐ美空の勤務時間が終わろうという頃、受付に大声が響いた。
「おい! 受付前に埃が落ちてるぞ。ちゃんと掃除したのか?」
(うわ、やっぱり来た……)
洋介がずんずんと受付前まで来ると、目視ではほとんど確認できないような小さな埃を指差した。
お客様が何人いるというのに、洋介は大声でお構いなしだ。
「全く……どうなってるんだ!」
「申し訳ありません」
美空は小さく謝罪すると、布巾でそれさっと拭き取る。
けれど洋介はまだ満足しないようだった。
「受付ってのはお客様が最初に来る場所なんだ! お前のせいでジム全体が不潔に思われるだろうが!」
「一体どんな神経してたらこんな不真面目に仕事が出来るんだ!」
美空がひたすらに頭を下げていると、人影が近づいてきた。
「あの、先程から貴方のお説教がすごく耳障りなんですけど。ここのジムでは客を放置して従業員に説教するのが普通なんでしょうか?」
よく聞きなれた低い声。
そっと顔をあげると、そこには優斗が険しい顔で立っていた。
洋介は一瞬「しまった」という顔をしたが、すぐに怒りを露にした。
「お前っ……いつも俺の邪魔をしやがって! お前だろ、美空を誑かしておかしくした奴は!」
「なんの事でしょう? 僕は今、受付で大声を出している貴方の話をしているんです。少しは周りを見たらどうですか?」
優斗が冷静な口調で周囲を指し示すと、少し離れた位置に座っていた男性客たちが立ち上がった。
「そこの兄ちゃんの言う通りだな。あんた、ちょっと煩すぎる」
「毎日のように怒鳴り声を聞かされたんじゃあ、やる気も失せるって」
「受付の姉ちゃんはそんなに悪いことしてないだろ。いつも笑顔で対応してくれてる」
皆が口々に言うと、洋介は口を閉じて拳を握りしめた。
「くそっ……調子乗るなよ」
洋介は優斗に吐き捨てると、早足でスタッフルームの方に去っていった。
「姉ちゃん、気にすることないよ」
「そうだ。あんな野郎放っておきな」
「いつもありがとうな」
声をかけてくれた客たちは皆、美空に優しく声をかけてトレーニングルームの方へ向かっていく。
美空が「ありがとうございました!」とお辞儀をすると、皆恥ずかしそうに笑みを浮かべて手を振ってくれた。
皆が去っていって静かになった受付で呆然としていると、優斗の手が肩に触れた。
「大丈夫?」
「……どうしてここに?」
「話す時間が取りたくて。少しでも声が聞きたかった。すまない、職場まで来る旦那なんて鬱陶しいと分かっていたんだが……」
「そんなことないですっ!」
優斗の悲しそうな表情に、美空の声が思わず大きくなる。
「私もっ、会いたかったです……」
言いながらだんだんと恥ずかしくなって、声も小さくなっていく。
けれど優斗は嬉しそうに微笑んだ。
「良かった、もう話せないのかもって不安だったんだ。美空はもうすぐ仕事終わりだろう? 今日は当直明けで休みをもらえたから、美空の仕事終わりまで待ってるよ」
「え、で、でも……」
戸惑っていると、優斗はトレーニングルームとシャワーの利用券を差し出した。
「はい、これ」
「あっ、はい。で、ではこちらのリストバンドをどうぞ……」
「ありがとう、また後で」
優斗はリストバンドを受け取ると、颯爽とトレーニングルームの方へ消えていった。
(優斗さんが来てくれた……。あ、会いたいって言ってくれた)
洋介が助けてくれたことも嬉しかったが、それが一番嬉しい。
美空の心臓は高鳴り、眠気はすっかり飛んでいってしまった。