似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
美空が待合室で座っていると、奥から優斗がこちらに向かっているのが見えた。
「優斗さんっ」
「大変だったな。彼はもう大丈夫だ。……少し場所を変えよう」
中庭に移動した二人はベンチに座って、同時にため息をついた。
「今日、退職届を出しに行ったら、いないはずのあの人がいて……少し話をしたら、急に苦しみ出したんです。でも優斗さんが来てくれて助かりました。私、困惑しちゃって」
美空がうつむくと、優斗が「そうか」と言って美空の頭をポンと撫でた。
「昼にジムへ行くって言っていただろう? 嫌な予感がして、休憩時間に様子を見に来たんだ。そうしたら美空とあいつが入り口のところで言い合ってるのが見えて」
「そうだったんですね。心配してくれてありがとうございます」
ホッとしたけれど、気分は複雑だ。
目の前で嫌悪していた人間が倒れたのだから。
すると、優斗がそっと手を握って「もう大丈夫だ」と微笑んだ。
「急性心筋梗塞だったが、カテーテルも通ったし、意識もしっかりしてる。……処置の後、あいつと少し話した。もう美空に関わることはない。一切な」
「どうして……」
「それは」
優斗が何か答えようとした時、こちらに走ってくる人影が見えた。
「村上社長……」
それは洋介の父、ゼスティアグループの社長だった。
「美空くん、この度は本当に申し訳ない。この通りだ」
深々と頭を下げる社長に美空は慌てて「止めてくださいっ」と制止した。
「息子が迷惑をかけたのにも関わらず、今日は命まで救ってもらった。君には何と言えば良いか……」
「社長のせいではないです。……それに、洋介とは色々ありましたけだ、ゼスティアに拾っていただいた感謝の気持ちは変わりません」
美空が社長に頭を下げると、社長は眉を下げて首を振った。
「君は優しいな。だが、けじめはつけさせてくれ。洋介はゼスティアを退職させる。外の世界を知らねばならん。……もっと早くこうすべきだった。少し前からクレームが大量に来ていたようだが、私のところに届くまでに時間がかかってしまった」
(大量にクレーム? まさか優斗さんが?)
社長の言葉に思わず優斗を見る。
すると優斗は「俺は一回だけだよ」と苦笑していた。
「美空くんへの当たりはお客様から見ても、最悪なものだったんだろう。本部だけじゃなく、君たちの店舗に直接入ったクレームも合わせると、かなりの件数だったと聞く」
「そうでしたか」
きっと常連の皆がしてくれたのだろう。
彼らに感謝と申し訳なさが募る。
「休暇以外の対応も遅れて本当に申し訳ない。関係者には処分を下すつもりだ。お客様を不快にさせる従業員指導など、存在してはならないのだから」
「そ、そうですか。あの、そこまでしていただけたら、もう十分です」
平身低頭して謝る社長の姿に、美空が答えると、彼はパッと顔を上げて美空を見た。
「退職届を出したと聞いたが、もう君を苦しめる人材はいない。もし、美空くんが良ければ、もう一度働かないか?」
「えっと……ありがたい申し出なのですが、それはお断りします」
美空は微笑んできっぱりと答えた。
確かに、洋介がいないゼスティアなら働きやすいかもしれない。けれど、いつか彼が戻ってくるかもしれない。
その時に美空がいたら、きっと互いに嫌な思いをするはずだ。
(もう、洋介には関わらない。それが一番よ)
美空のまっすぐな瞳に、社長はふっと微笑んだ。
「我が社は惜しい人材を失くしてしまった。だが、当然のことだ。美空くん、ゼスティアはもっと社員一人一人に向き合うことを約束する。だから、見ていてくれ」
「はい。応援しています」
社長は再度深々と頭を下げると、病室の方に去っていった。
「良かったのか?」
優斗が美空の顔を覗き込んだ。
彼はホッとしたような、心配しているような、複雑な顔をしている。
なんとも言えない表情をさせているのが申し訳ない。
「元々辞めるつもりでしたし。もう縁を切りたいので」
「そうか」
美空は黙り込んでしまった優斗の手をぎゅっと握る。
「今日もし時間があれば、ストレッチに付き合ってくれませんか?」
美空が優斗を見上げて微笑むと、彼はふっと表情を緩めた。
「もちろん。その前に食事も一緒に作ろう」
「はいっ!」
「優斗さんっ」
「大変だったな。彼はもう大丈夫だ。……少し場所を変えよう」
中庭に移動した二人はベンチに座って、同時にため息をついた。
「今日、退職届を出しに行ったら、いないはずのあの人がいて……少し話をしたら、急に苦しみ出したんです。でも優斗さんが来てくれて助かりました。私、困惑しちゃって」
美空がうつむくと、優斗が「そうか」と言って美空の頭をポンと撫でた。
「昼にジムへ行くって言っていただろう? 嫌な予感がして、休憩時間に様子を見に来たんだ。そうしたら美空とあいつが入り口のところで言い合ってるのが見えて」
「そうだったんですね。心配してくれてありがとうございます」
ホッとしたけれど、気分は複雑だ。
目の前で嫌悪していた人間が倒れたのだから。
すると、優斗がそっと手を握って「もう大丈夫だ」と微笑んだ。
「急性心筋梗塞だったが、カテーテルも通ったし、意識もしっかりしてる。……処置の後、あいつと少し話した。もう美空に関わることはない。一切な」
「どうして……」
「それは」
優斗が何か答えようとした時、こちらに走ってくる人影が見えた。
「村上社長……」
それは洋介の父、ゼスティアグループの社長だった。
「美空くん、この度は本当に申し訳ない。この通りだ」
深々と頭を下げる社長に美空は慌てて「止めてくださいっ」と制止した。
「息子が迷惑をかけたのにも関わらず、今日は命まで救ってもらった。君には何と言えば良いか……」
「社長のせいではないです。……それに、洋介とは色々ありましたけだ、ゼスティアに拾っていただいた感謝の気持ちは変わりません」
美空が社長に頭を下げると、社長は眉を下げて首を振った。
「君は優しいな。だが、けじめはつけさせてくれ。洋介はゼスティアを退職させる。外の世界を知らねばならん。……もっと早くこうすべきだった。少し前からクレームが大量に来ていたようだが、私のところに届くまでに時間がかかってしまった」
(大量にクレーム? まさか優斗さんが?)
社長の言葉に思わず優斗を見る。
すると優斗は「俺は一回だけだよ」と苦笑していた。
「美空くんへの当たりはお客様から見ても、最悪なものだったんだろう。本部だけじゃなく、君たちの店舗に直接入ったクレームも合わせると、かなりの件数だったと聞く」
「そうでしたか」
きっと常連の皆がしてくれたのだろう。
彼らに感謝と申し訳なさが募る。
「休暇以外の対応も遅れて本当に申し訳ない。関係者には処分を下すつもりだ。お客様を不快にさせる従業員指導など、存在してはならないのだから」
「そ、そうですか。あの、そこまでしていただけたら、もう十分です」
平身低頭して謝る社長の姿に、美空が答えると、彼はパッと顔を上げて美空を見た。
「退職届を出したと聞いたが、もう君を苦しめる人材はいない。もし、美空くんが良ければ、もう一度働かないか?」
「えっと……ありがたい申し出なのですが、それはお断りします」
美空は微笑んできっぱりと答えた。
確かに、洋介がいないゼスティアなら働きやすいかもしれない。けれど、いつか彼が戻ってくるかもしれない。
その時に美空がいたら、きっと互いに嫌な思いをするはずだ。
(もう、洋介には関わらない。それが一番よ)
美空のまっすぐな瞳に、社長はふっと微笑んだ。
「我が社は惜しい人材を失くしてしまった。だが、当然のことだ。美空くん、ゼスティアはもっと社員一人一人に向き合うことを約束する。だから、見ていてくれ」
「はい。応援しています」
社長は再度深々と頭を下げると、病室の方に去っていった。
「良かったのか?」
優斗が美空の顔を覗き込んだ。
彼はホッとしたような、心配しているような、複雑な顔をしている。
なんとも言えない表情をさせているのが申し訳ない。
「元々辞めるつもりでしたし。もう縁を切りたいので」
「そうか」
美空は黙り込んでしまった優斗の手をぎゅっと握る。
「今日もし時間があれば、ストレッチに付き合ってくれませんか?」
美空が優斗を見上げて微笑むと、彼はふっと表情を緩めた。
「もちろん。その前に食事も一緒に作ろう」
「はいっ!」