死に戻り夫人の恩返し〜拝啓旦那様、あなたと結婚できて幸せでした〜

第31話 大きな決断と顔色

 メラニアは帰宅後すぐ、袋の中からパンフレットを取り出す。ジニアのことも気になるが、今はどうすることもできない。登校日に改めて話し合おうと決め、先に研究所について考えることにした。

 一晩で一通り読み終え、翌朝早速両親と話し合う。

「それで、ジェルケイブス教授が一緒にどうかって言ってくださって」
「王立魔物研究所か。チラッと話は耳にしていたけれど、まさかうちのメラニアに話が来るとはね~。うん。悪い話じゃないと思うよ」

 父はパンフレットの中を確認しながら、ウンウンと頷く。好印象な父とは反対に、母の顔色は曇っている。

「私は反対ですよ。文官でさえ出会いが少ないというのに、魔物研究所なんてもっと出会いがないじゃない……」

 文官として働きたいと話した時も、母の反応は今と同じだった。メイドや侍女ではダメなのかと何度も話し合いになっている。その末でようやく試験を受けることを認めてもらえた。

 母の言う通り、文官であれば城内勤務である分、まだ出会いはある。どこかの貴族から結婚の申し込みがあるかもしれない。だが研究所に就職した場合、勤務地は城以外の建物になる。

 パンフレットとは別に用意してもらった案内によれば、研究所の建設予定地は城下町の外側。段階的に施設を増やしていく予定もあり、その場合は勤務地が移る可能性もあるとのこと。

 未だメラニアの結婚を諦めていない母からすれば、受け入れがたい話なのだろう。父も完全に諦めてはいない。未だ、メラニアが死に戻り前に結婚していた相手を探している。

「私は結婚より、一人で生きていく道を模索する方が現実的だと思っています」
「なんてことを言うの!」
「そうだぞ、メラニアの良さを理解してくれる男性がきっと見つかるはずだ」

 両親の気持ちもよく分かる。それがメラニアの幸せを願ってくれているからだということも。だが自分の良さを知ってもらう相手は未婚男性に限定する必要はない。

 ジェルケイブス教授がメラニアを認めてくれたように、視野を広げれば今のメラニアでも求めてくれる人はいる。

「お父様、お母様。これを見てください」
「本と論文と、手紙?」
「これは全てジェルケイブス教授のご友人の方々が送ってくださったものです。彼らは教授の話を通して、私に興味を持ってくれています。私はガルド家の一員として培ってきた知識を存分に生かし、国のために働きたいと思います」
「……それがメラニアの結論なんだね」
「はい」

 父の言葉に力強く頷く。

 メラニアは自分の知識や考え方が特別だとは思えない。学園を卒業したばかりの身では至らない点も多いだろう。

 それでもジェルケイブス教授の言葉と、彼の友人がくれた手紙を通して、こんな自分だからこそできることがあるのではないか。辺境伯夫人として生きた十年間が何か役に立つのではないかと考え始めた。

 それはきっと結婚という縁を待ち続けるよりもずっと自分らしいと。
 胸を張って生きていけると思うのだ。

「……分かったわ。でも危険があると判断したら止めるわよ」

 母は頭を押さえながらも、メラニアの決断を受け入れてくれるようだ。

 文官になりたいと話した時のように数日かかりになることも覚悟していた。だから少し拍子抜けしてしまう。

「いいんですか」
「いいも何も、あなたはこうと決めたら頑として動かないでしょう……。お願いだから危険なことだけはしないでちょうだい」
「心配をかけてごめんなさい」


 早速ジェルケイブス教授の家に足を運び、お誘いの返事をする。
 その場でニール教授への手紙を書くと、三日とせずに返事が来た。

『学園の応接室で面談がしたい』

 ニール教授の手紙に添えられていたメッセージカードには、指定の日時と共にそれだけ書かれていた。

 ちょうど研究所の下見のために来る予定が入っていたらしい。その合間に会ってくれることになった。とんとん拍子で話が進んでしまい、少し怖いくらいだ。


 そして今日が指定された日。
 面談までの時間を潰すために図書館で過ごしている。

 エリザとルイ、ジニアは面談が終わるまで待っていてくれるようだ。少し緊張しているのでありがたい。ただメラニアには気になることがあった。

「時間がかかるかもしれませんから、先にお帰りになっていても」
「いや、待っている。私もメラニア嬢に話があるんだ」
「でも顔色が悪いですよ」

 ジニアの様子がおかしくなったのは、ジェルケイブス教授の家から帰る道中に遭遇してから。休み明けにロイについての誤解を解こうとしたが、どこか心あらずな状態だった。

 それからジニアの顔色は日に日に悪くなっている。今なんて真っ白だ。目の下には濃いクマができている。放課後の私的な理由まで付き合わせるのは気が引ける。

「そうよ。メラニアなら私とルイがちゃんと家まで送っていくから」
「無理はよくない」

 エリザとルイも同じ意見のようだ。ウンウンと頷く。

「体調は問題ない。ただ最近夢見が悪くてな。どんな夢かは覚えていないんだが、毎朝飛び起きると全身すごい汗をかいているんだ」
「あんまり続くようだったら医師に診てもらった方がいいわよ」
「精神的な負担が夢に現れているのかもしれないしな」
「今度の休みまで続くようだったら、医師を呼ぶことにする」

 あの時様子がおかしかったのも、夢見が悪かったからなのだろうか。

 以前ジニアにプレゼントした本の中には安眠効果があるハーブティーのレシピも載っていた。寝る前に飲めば少しは気が安らぐかもしれない。明日、調合した茶葉を持ってこよう。
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