隣の席の悪魔 〜あの頃は、明日が当たり前だった

西日の居眠り

別のクラスになった、
私と空くん。

去年みたいに。

授業中、
ちょっかいを出して怒られたり。

購買のパンを取り合ったり。

そういうのは、
少し減った。

でも。

会えなくなったわけじゃない。

廊下で会ったら、
相変わらず適当にあしらわれるし。

合同体育では、
煽ってくるし。

相変わらず、
“気が向いたら”走るし。

帰り道も、
ときどき一緒。

それに――

◇

「はぁぁぁ……」

私は図書室のカウンターに突っ伏した。

夏。

西日。

セミの声。

静かな空気。

図書委員って、
思ったより暇。

自分から手を挙げた委員会だけど。

一人でいると、
やっぱり少し寂しい。

「……また溶けてる」

聞き慣れた低い声。

空くん。

いつもの窓際。

いつもの席。

「空くんこそまた来た!」

「暇」

絶対嘘。

だって最近、
毎日いる。

しかも。

毎回、
カウンターから一番近い席。

何でもない顔して座ってるけど、
絶対わざと。

◇

空くんは本を開く。

私は頬杖をつきながら、
ぼーっとその横顔を見る。

長いまつ毛。

静かな顔。

なんか。

空くん見ると、
ほっとする。

その時。

「……なに」

本から目を上げないまま、
空くんが言った。

「え?」

「見すぎ」

……バレてた。

私は慌てて顔を逸らす。

「見てないもん」

「変なやつ」

ふっと小さく笑う声。

空くんは、
こういうところがずるい。

◇

風が吹く。

開いた窓から、
夏の匂いが流れ込んできた。

カーテンが揺れる。

ページをめくる音。

遠くのセミ。

よく効いた冷房。

静かな図書室。

空くん。

空気が心地よくて。

「……眠」

私はそのまま、
カウンターに頬をつけた。

「寝るな」

「むり……」

眠くなる条件、
全部揃ってるもん。

「……風邪引くぞ」

「平気だよ、
夏だし……」

私は目を閉じた。

そのまま。

少しだけ。

ほんの少しだけ――

◇

「……星野」

頭上から聞こえる低い声に、
私はゆっくり目を開けた。

ぼやけた視界。

オレンジ色。

図書室の影が、
さっきより長く伸びていた。

そして。

目の前には、
空くん。

「……っ!?」

近っ。

私は勢いよく起き上がる。

すると。

ぱさっ。

肩から、
何かが落ちた。

……ジャージ。

私は瞬きをする。

……これ。

もしかして。

「空くんの?」

空くんは、
少しだけ目を伏せた。

「……寒そうだったから」

私は慌ててジャージを拾い上げ、
抱きしめる。

……あったかい。

「……ありがと」

小さく言うと。

空くんは自分の席へ戻りながら、
ぽつりと呟いた。

「別に」

またそれ。

でも。

耳、
ちょっと赤い。

私は思わず笑った。

さっきまで気になってたこと、
もう忘れてた。

◇

閉館時間を知らせるチャイムが、
小さく図書室に響く。

窓の外。

入道雲。

オレンジ色の空。

私はジャージを畳みながら、
小さく笑った。

「空くん」

「なに」

「やっぱ図書室好きかも」

空くんは、
少しだけ目を細める。

「……うるさいのに?」

「うるさいって言うな!!」

「はは」

また、
笑ってる。

西日が。

静かな図書室を、
ゆっくりオレンジ色に染めていく。
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