隣の席の悪魔 〜あの頃は、明日が当たり前だった

チョコ

翌日。

昨日渡せなかったチョコは、
家で全部食べた。

分量は間違ってないはずなのに、
ちょっとだけ苦かった。

◇

教室。

窓の外。

白っぽい冬の空。

席について、
授業の道具を取り出した。

その時。

「星野」

頭上から、
低い声。

反射で顔が上がりそうになる。

でも。

私は慌ててプリントへ視線を落とした。

「……おはよ」

小さい声。

自分でも、
変に硬い声だと思った。

すると。

少しだけ沈黙。

「……おはよ」

空くんの声。

いつも通りなのに。

心臓だけ、
変にうるさい。

◇

その日。

私は空くんと、
ほとんど話さなかった。

休み時間。

廊下ですれ違っても、
何も言わずに
早足で通り過ぎた。

昼休み。

空くんがこの教室へ来ても、
私はわざと友達の方を見る。

放課後の、
走る時間を考えて。

ずっとそわそわしてた。

……避けてる。

自分でも分かってる。

でも。

無理だった。

だって。

“待ってるの、まだあるから”

昨日の空くんの言葉が、
胸に引っかかっていたから。

◇

放課後。

教室には、
オレンジ色の光が差し込んでいた。

私は鞄を抱えたまま、
立ち上がる。

その時。

「……星野」

低い声。

心臓。

どくん。

顔を上げる。

空くん。

こっちを見てる。

「な、なに」

すると。

空くんが、
少しだけ眉を寄せた。

「今日避けてる?」

え。

胸がぎゅっとなる。

「避けてない」

即答。

でも。

絶対、
声変だった。

空くんは、
黙ったまま私を見る。

その視線が、
なんか落ち着かない。

「……嘘」

短い声。

逃げられない。

私は視線を逸らした。

その時。

空くんが、
小さくため息をつく。

「……チョコ」

心臓。

止まりそう。

私は一気に顔を上げる。

空くんは前を向いたまま、
小さく言った。

「持ってたんだろ」

え。

時間が止まる。

「……なんでそれ……」

「葛西」

……あのノッポ野郎。

私は、
もうチョコの入っていない鞄を抱きしめた。

空くんが、
少しだけ眉を寄せる。

「なんでくれないの」

その声に、
胸がぎゅっとなる。

私は小さく俯いた。

「……だって」

声。

小さい。

「空くん、
いっぱいもらってたし」

沈黙。

夕方。

冬の光。

そして。

空くんが、
小さくため息をついた。

「……あれ、
全部葛西が持ってった」

「最低」

思わず笑ってしまう。

すると。

空くんも、
少しだけ笑った。

「……くれると思ってた」

え。

空くんは前を向いたまま、
少しだけ眉を寄せていた。

「昨日、
なんか言いかけてたし」

私は何も言えない。

胸だけ、
うるさい。

沈黙。

夕方。

オレンジ色の光。

窓の外。

白っぽい冬の空。

私はもう一度、
ぎゅっと鞄を握る。

そして。

小さく言った。

「……また作ってきたら、
食べてくれる?」

数秒。

沈黙。

そして。

「……変なの入ってたら、
食べない」

「そ、そんなわけないでしょ!!」

私は顔を上げた。

空くん。

少しだけ笑ってる。

その瞬間。

胸の奥が、
じんわりあったかくなった。

窓から差し込む夕方の光が、
静かな教室をオレンジ色に染めていく。

外は寒いのに。

なんか。

今だけ少し、
あったかかった。
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