隣の席の悪魔 〜あの頃は、明日が当たり前だった

束の間の冬

十二月。

図書室へ向かう廊下は、
朝よりずっと冷えていた。

窓の外。

白っぽい空。

抱えた参考書の角が、
指先に少し痛い。

気づけば、
“卒業まで”
を考えることが増えた。

あと何回、
この場所で笑えるんだろう。

「さっむ……」

私はマフラーに顔を埋めながら、
図書室へ向かった。

◇

図書室。

西日。

静かな空気。

空くんはその日も、
いつもの窓際にいた。

参考書を開いたまま、
何かを書き込んでる。

「空くん」

「なに」

「推薦どうだった?」

空くんの手が、
ぴたりと止まる。

私は姿勢を正した。

昨日は。

空くんの推薦試験の日だった。

空くんは、
前を向いたまま口を開く。

「……まぁ」

「まぁ?」

「たぶん大丈夫」

その言い方。

いつも通り。

でも。

なんか、
少しだけ疲れて見えた。

「そっか」

本を開きながら続ける。

「頑張ったね」

その瞬間。

空くんが、
こっちを見る。

珍しく、
目を見開いて。

「……なに」

「え?」

「急に」

私は笑った。

「だって頑張ってたじゃん」

夏からずっと。

図書室で。

私は知ってる。

空くんが、
ちゃんと努力する人だって。

その時。

空くんが、
視線を逸らしながら
小さく笑った。

◇

外は、
小さな雪が降り始めていた。

窓の向こう。

白い粒が、
静かに落ちていく。

「わ、雪」

私は窓へ近づく。

「あっ」

冷たい窓に触れた瞬間、
指先がじんっとした。

「手冷た」

後ろから、
低い声。

「そりゃそうだろ」

空くん。

いつの間にか、
すぐ後ろに立ってる。

近い。

そのまま。

空くんが、
私の頬へ温かいものを押し付けた。

「わ」

カイロ。

あったかい。

「ありがと」

「返せよ」

「えぇぇ」

ふっと笑う声。

私はカイロを両手で包みながら、
窓の外を見る。

雪。

図書室。

西日。

隣にいる空くん。

なんか。

雪の音まで、
聞こえそうだった。

◇

「……星野」

「ん?」

空くんは窓の外を見ている。

「落ちたら笑う」

「最低」

私は吹き出した。

「励ましてよ!!」

「受かるだろ」

即答だった。

空くんは、
前を向いたまま。

また、
胸の奥が、
じんわりあったかくなる。

私は小さく笑った。

「……空くんもね」

空くんが、
少しだけ目を細める。

窓の外。

白い雪。

静かな図書室。

カイロの熱。

この雪が溶ける頃には。

きっと、
今とは違う春が来る。
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